Liar of us 嘘つきな僕たち | ナノ

Liar of us 嘘つきな僕たち

事なかれ主義は痛い目を見る




 本日も部活を無事に終え、私がお風呂を上がると時刻は午後九時半過ぎ。大浴場を後にし一旦自室に荷物を置いて栄純のいる五号室に向かう。確か同室はあと増子先輩がいるはず。
 外に出ると心地よい風が吹いていた。夏前の独特の空気を感じながら、風呂上がりのシャンプーの香りを見に纏い悠々と廊下を歩いていると、前方から騒がしい声する。何かと目をやると、栄純と降谷君が御幸先輩に絡んでいるようで、少し距離があるというのに声が此方まで聞こえてくる。
 見つかると面倒そうだなぁ、なんて呑気に眺めていると偶々こちらを見た御幸先輩と目が合ってしまった。私を見つけた先輩は、こっちに来いと手招きしている。巻き込まれたくなくて見て見ぬ振りをしたかったが、何かとお世話になっている身でそんな事は到底出来そうにない。小走りで近寄り「何してんですか?」と声をかけた。私に気付いた栄純達が一旦静かになった所で事の経緯を聞けば二人が御幸先輩に球を受けてくれとお願いしていたようで、先輩は嫌だと断っているのに諦めないのだと言う。

「いつもの事じゃないですか」
「そうだけど、今日はやたらしつけぇんだよ。助けろよ」

 はぁ、と一つ溜息を吐き栄純へ向き直る。

「栄純、今日の約束忘れたの? 今からそっちの部屋に行くとこだったんだけど」

 私が言えば栄純は「しまった忘れてた!」と心の中で留めて誤魔化せばいいのに声に出てしまっている。
 なんて正直者なんだ栄純よ。

「も、も、もちろん覚えてたぜ! 当たり前じゃねーか」
「いや、『忘れてた』って今声に出てたからね」
「そうか、すまん!」

 頭を下げ拝むように手を合わせ謝る栄純にもう良いよと頭を上げさせる。そんな私達のやり取りを聞いていた御幸先輩はこいつと言いながら栄純に親指で指差しながら問いかけてきた。

「お前今からこいつの部屋行くのか?」
「はい、――あ」

 その時あることを閃いた。自分だけでお部屋訪問は緊張する。この際だ、御幸先輩も降谷君も巻き込んで部屋に連れて行こうと企んだ私はニヤリと笑う。

「そうなんです。ちょっと作戦会議しようと思って! だから二人も来て下さい」
「作戦会議って何のだよ」
「……僕も?」
「うん、降谷君も。 詳細は部屋に着いてから話すんで取り敢えず行きましょう! さ、栄純行こう!」
「お、おう」

 歩き出した栄純に続くように、不審がる二人に有無を言わさず背中から押して足を進ませ、五号室へと向かう。最初は足取りが重かった二人も強引な私に観念したのか途中からは押す背中が軽くなった。
 五号室の前に着いた瞬間、栄純はノックもせず勢い良く扉を開けた。

「ちょっと栄純! ノックしなくていいの?」
 さすがに驚いた私は栄純に問いかけた。すると
「いつもこうだけど、何か問題あるか?」
 全く何の事か理解していないようで、先輩と一緒に住んでるという自覚はないのか、と呆れてしまう。まあ、栄純だから許されるのだろうが。

 栄純に続き中へと足を踏み入れると、倉持先輩がテレビに向かいゲームで遊んでいた。

「倉持先輩! 一希が来ましたよ」

 テレビに顔を向けたまま倉持先輩が「おう、ちょっと待ってろ」と言い放つ。

「ま、取り敢えず座って座って!」

 栄純が私達を促す。全員が部屋に入り座った所で、思い出したように栄純が立ち上がり、自身の机の引き出しから何かを取り出し持って来た。見てみるとそれはアイドルの写真集で、

「この中に一希にソックリの奴が居るんだって、今日クラスメイトに渡されたんだ!」

 昼休みに見せたかったのに、と栄純がページを捲って行く。目当てのページを見つけたのか指を指し「コレだよコレ!」私の目の前にズイっと差し出した。確かに私に似ている。

「本当だな、そっくりじゃねぇか!」

 いつの間にかゲームを止めた倉持先輩も参加して、全員が雑誌と私を交互に見やる。あまりにも似ていた為、倉持先輩が「これお前じゃね? 実は女だったりしてな」ヒャハハ、と笑いながら口走り耳を疑った。予想だにしなかった展開に挙動不審になる私を横目に御幸先輩は呆れ顔。

「こいつがもし女だとしても、こんなにスタイル良いわけねぇだろ」

 失礼極まりないが、御幸先輩なりのフォローと受け取り便乗する。

「そうですよ! こんなスタイル良い子なかなか居ないですからね! 芸能人甘く見過ぎですよ」

 言ってて自分で悲しい。
 話題を変えようとページを捲り、アイドルが沢山並んで写っている所で止める。

「それよりどんな子が好みですか? この中だったら」

 僕はこの子だなぁ、その中の一人を適当に指差した。

「お前、こんな感じが好みなのかよー」

 倉持先輩が乗ってきた事で一安心。栄純達もそれに続いて女性の好みについての談義が続く。私の横では御幸先輩が「バーカ!」と小声で呟いた。その通りです、ごめんなさい。挙動不審になり過ぎました。

「それより何しに来たんだよ。御幸や降谷まで」
「別に俺は来たくて来たんじゃないぜ。鳴海に無理矢理連れて来られたんだよ」
「そんな無理矢理なんて、ただあんまり話した事無かったんで皆で話してみたいなぁと思ったんです。栄純の口から出る倉持先輩は怖いイメージにしかならないので」
「ふーん、沢村がどんな事言ってるのか興味あんなぁ!」
「一希!! それは言っちゃダメだろ!」
「ご、ごめん」

 倉持先輩は栄純を羽交い締めにして逆エビ固めをし始めた。痛がっていない栄純が不思議で堪らない。昔兄に一度だけされた事があるが、あまりの痛さに号泣した苦い思い出がある。

「倉持先輩! それで、今日のお昼の件どうなりました? 僕、それが気掛かりで仕方なくて……」
「あぁ、お前の事が好きって言うあの女子な。別に何とも無かったぜ。心配しすぎじゃねぇか?」

 未だ栄純にプロレス技を掛けながら、顔はしっかりと私に向き答える倉持先輩は器用だなぁ、なんて感服ものだ。

「こいつの事好きって言う女子がいんのか!?」

 心底驚いた表情で御幸先輩。

「そうなんですよ。しかも色々と誤解してまして……」
「誤解って?」
「僕と倉持先輩が付き合ってるって思ってるぽくて――」
「なんだそれ!? 何がどうなったらそんな誤解すんだよ」
「それは、その……」

 言い淀む私を尻目に、栄純をようやく離し御幸先輩の隣へと移動した倉持先輩が事情を掻い摘んで話す。

「面白れぇ展開になってんな! てか女子の想像力半端ねぇ」
「へぇー、鳴海くんって大胆なんだね」
「降谷君! 今の話をどう聞いたらそんな解釈になるの。お願いだから解決策を一緒に考えて下さいよー」

 嘆きは皆の心に響かず、結局解決策は見つからず仕舞いだった。
 亮ちゃんの忠告を忘れた訳ではないが、この展開は想定外で後々さらに痛い目に遭うなんて思いもしなかった。


to be continued……




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