06話目 3/5
「ちぃーっす。」
「こんにちは。」
私たちは青学のテニス部部室を訪ねた。
「越前。どうした。」
「手塚部長、この人・・・。」
そう言ってリョーマは私を見た。
「あ、こんにちは。氷帝学園3年、テニス部マネージャーの歌原睦月といいます。本日は部長の使いできました。書類をどうぞ。」
「ありがとう。俺は青春学園テニス部部長、手塚国光だ。」
「よろしくお願い・・・あっ。」
本当に眼鏡で老け・・・大人っぽい。
「手塚、今度のオーダーが・・・なんじゃリョーマ。のこっておったんか。」
「あ、ばーさ・・・竜崎先生。」
ノックをして部室に入ってきたのは50代前半くらいの、テニス部の顧問らしき女の人。
「あの、こんにちは。」
「ああ、こんにちは。誰じゃ?」
「俺の知り合い。氷帝テニス部のマネ。」
「歌原睦月です。」
「ほう、氷帝の・・・ん?歌原っていうと・・・?」
私の名字を聞いたとき竜崎先生の顔が変わった。
「はい?どうかされましたか?」
「お前さん、親は・・・?」
「あ・・・父と母ですか?今は確かアメリカにいますよ?」
私の父と母は結構有名な企業で働いていて、外国に行くことも多い。
「そんなはずは・・・しかし・・・。」
「バーさん。もういいでしょ。俺達もう行くよ。
睦月サン、先行っててくんない?俺ちょっと忘れ物したから。
さっきの校門前で待ってて。」
「?うん。わかった・・・。待ってるね。」
そう言って私はテニス部部室を後にした。
ドアの閉まった部室の中での会話も知らずに。
〜リョーマside〜
「バーさん、さっきなんて言おうとした。」
俺は竜崎先生の言おうとしたことが分かった。
だからわざわざ会話を打ち切って睦月さんを外に出したんだ。
「あの子、歌原といったな?」
「そうっすよ。それが?」
「そうか、あの子が・・・。」
そう言ったきり、竜崎先生は黙った。
「何なんすか。」
「あの子の父親と母親は・・・?」
「・・・・・。」
俺は知っている。
睦月サンの父親と母親がどうなったか。
「あの子は・・・?」
「あの人の父親も母親も、もうこの世にはいないんです。」
「やはりそうか。」
痛ましい事故だった。
「お願いします。睦月サンには言わないでください。あの人は何にも知らされてない。まだ親が生きて、アメリカにいると思っている。」
「・・・。」
「あの人の遺産は莫大なものだ。本人も知らないうちに睦月さんはそれを受け継いで、仕送りという形で受け取っているって聞いた。
バーさん、お願いだ。何も知らなかったことにしてくれ。」
それだけ言って俺も睦月サンの後を追った。
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