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この世界、遠くで
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小さい頃から、愛されたことなんてなかった。

いつからか、笑えなくなった。

「俺が、お前を助ける。俺が27になったら、家を買うから。そしたら俺と住もうや。」

「・・・?」

いつからか、声を出すことも忘れた。

「はてなーって顔したって声ださんとわからんでー・・・?」

「・・・・。」

「まだ無理みたいやな。ほら悲しい顔せんと、笑え。声もいつか戻ってくるて。」

「・・・。」

頷くか、首を振ることしかできない私の手を、優しく握りながら歩くおじさん。

血の繋がらないこの人がぱぱだったら。

あの冷たい人たちとじゃなくて。

この人の娘として一生暮らせたら。

私は幸せになれるんだろうか。


そんなことを考えたのは、おじさんが18歳で、私が5歳の年の秋だった。

それから9年後。

「約束、守れそうなんや。俺と一緒にこの家を出よう。」

彼はいつも私を守ってくれる。

「ぱぱ・・・・。」

「ホンマ、お前は・・・俺この歳で子持ちかいな。」

「・・・・ごめんなさい。」

「ええで、そう呼んでも。」

「・・・・え。」

「ぱぱはさすがにあかんな・・・・お父さんでええ?」

「・・・・うん!」

「行こか、あいつらには話つけといたから。」

「・・・・・。」

「また悲しい顔して。笑え。神様はちゃあんと見とるよ。この世界の、ずっと遠くで。」


そして私はお父さんになったおじさんと一緒に暮らし始めて、彼の務める学校に通うことになった。

おじさんが27歳、私が14歳の春のこと。

この一年間を、私は忘れないだろう。

転校先でであった彼らのこと。

たとえ私が、彼らの手の届かない、この世界の遠くにいったとしても。



世界の遠くで約束する。いつか、またあなたたちと。
 
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