02.追いかける3/17
追いつけるなんて、そんなこと。
夢にも思わない。
「よっ、名字。おはよ。」
ぼーっと空を眺めていたら、そんな声が聞こえて振り返る。
「あ、神尾じゃん。おはよ。」
「お前いっつもテンション低いよなー・・・特に俺といるとき!」
「神尾がテンション高いからいいの。」
「そか?あ、深司じゃん。おーい!深司ーっ!!」
そう言って神尾は走り出した。
あ、また。遠くなっていく。
神尾は走るのが速い。すぴーどえーす?だったっけ。
そんなあだ名を持っている彼は、男友達を見るとすぐに走り出す。
だから私は、彼とあまり話したことがない。
それでも私は彼が好きだ。
一生懸命テニスをやる姿。
楽しそうに走る姿。
仲間たちと笑い転げてる姿。
その全てに救われてきた。
「あ〜あ〜・・・気づいてくれないかな・・・。」
気づかれたら、それはそれで気まずいけど。
「あ、名字さん。おはよう。」
「あ、森くん。おはよう。」
小さな私の気持ちなんか、彼に気づいてもらえるわけないんだ。
きっと彼には、一生追いつけないまま。
「じゃあ、俺行くね。」
「あ、うん。」
「あのさー・・・名字さんって神尾意外とあんまり喋んないよな。」
「うん。なんで?」
森くんとは同じクラスだから時々しゃべるけど、男の人としゃべるって、しない。
女の子でかたまってるから。
その中にずかずか入り込んでくる神尾は例外だけど。
「神尾もあれで、名字さん以外の女子と全然話さないんだ。」
「へぇ・・・。」
そんなことを話していたら前からスゴイ勢いで何かがやってきた。
「あ、きたきた。じゃあ、俺は本当にこれで。邪魔しちゃ悪いし。」
森くんは意味のわからない言葉を最後に走っていってしまった。
「名字・・・。」
「神尾。伊武くんは?」
「神尾は名字がいるんだから名字と話せってよ。」
なんだよつまんないやつ。と言いながらも彼はとなりに並ぶ。
どうしよう、嬉しい。
さっきまで曇だった空が、晴れ間を見せた。
天高く、秋。君が待ってた。私は追いつけた。
めでたしめでたし。
どこまでも澄み切った空に微笑みながら、校門をくぐった。
*************
side神尾
ちょ、顔見ただけで嬉しいのに、こんなに喋っていいんだろうか。
そう考えた途端、俺は走り出していた。
何してんだ俺。つか喋れよ名字と!
深司を見つけて話しかけると、
「うわ。なんで朝から神尾の顔なんて見なきゃいけないわけ?」
と言ってたけど、無視してとなりに並んだ。
「元気か深司。」
「そんな神尾はどうなの。」
「ま、まぁちょっと。」
何メートルか進んだところで深司が振り返って「あ、」と声をあげた。
「どうした深・・・。」
と、言いかけて目に入ってきたのは、森と二人並んで歩く名字の姿。
「どうする神尾、取られちゃうよ。ま、あっちのほうがお似合いかも。」
「お似合い」
走って逃げる俺よりも、一緒に歩いてくれる森の方が・・・?
「名字には俺の方が似合ってるっての!」
深司に一言言ってから、さっきおいてけぼりにした名字の方まで走り出した。
なんで俺、こんなにムキになってんだろうな。
どっか行った森はほっといて、名字と二人、並んで登校した。
なんだ、空綺麗じゃん。ゆっくり歩いたら、いろんなことが見えてくる。
綺麗な空に「はは、」と笑いながら、校門をくぐった。
![](//img.mobilerz.net/sozai/308.gif)
君の見てるのと同じ景色を君の隣で見たい
← →