set series | ナノ
02.追いかける
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追いつけるなんて、そんなこと。

夢にも思わない。


「よっ、名字。おはよ。」

ぼーっと空を眺めていたら、そんな声が聞こえて振り返る。

「あ、神尾じゃん。おはよ。」

「お前いっつもテンション低いよなー・・・特に俺といるとき!」

「神尾がテンション高いからいいの。」

「そか?あ、深司じゃん。おーい!深司ーっ!!」

そう言って神尾は走り出した。

あ、また。遠くなっていく。





神尾は走るのが速い。すぴーどえーす?だったっけ。

そんなあだ名を持っている彼は、男友達を見るとすぐに走り出す。

だから私は、彼とあまり話したことがない。

それでも私は彼が好きだ。

一生懸命テニスをやる姿。

楽しそうに走る姿。

仲間たちと笑い転げてる姿。

その全てに救われてきた。

「あ〜あ〜・・・気づいてくれないかな・・・。」

気づかれたら、それはそれで気まずいけど。

「あ、名字さん。おはよう。」

「あ、森くん。おはよう。」

小さな私の気持ちなんか、彼に気づいてもらえるわけないんだ。

きっと彼には、一生追いつけないまま。

「じゃあ、俺行くね。」

「あ、うん。」

「あのさー・・・名字さんって神尾意外とあんまり喋んないよな。」

「うん。なんで?」

森くんとは同じクラスだから時々しゃべるけど、男の人としゃべるって、しない。

女の子でかたまってるから。

その中にずかずか入り込んでくる神尾は例外だけど。

「神尾もあれで、名字さん以外の女子と全然話さないんだ。」

「へぇ・・・。」

そんなことを話していたら前からスゴイ勢いで何かがやってきた。

「あ、きたきた。じゃあ、俺は本当にこれで。邪魔しちゃ悪いし。」

森くんは意味のわからない言葉を最後に走っていってしまった。

「名字・・・。」

「神尾。伊武くんは?」

「神尾は名字がいるんだから名字と話せってよ。」

なんだよつまんないやつ。と言いながらも彼はとなりに並ぶ。

どうしよう、嬉しい。

さっきまで曇だった空が、晴れ間を見せた。

天高く、秋。君が待ってた。私は追いつけた。

めでたしめでたし。

どこまでも澄み切った空に微笑みながら、校門をくぐった。

*************
side神尾

ちょ、顔見ただけで嬉しいのに、こんなに喋っていいんだろうか。

そう考えた途端、俺は走り出していた。

何してんだ俺。つか喋れよ名字と!

深司を見つけて話しかけると、

「うわ。なんで朝から神尾の顔なんて見なきゃいけないわけ?」

と言ってたけど、無視してとなりに並んだ。

「元気か深司。」

「そんな神尾はどうなの。」

「ま、まぁちょっと。」

何メートルか進んだところで深司が振り返って「あ、」と声をあげた。

「どうした深・・・。」

と、言いかけて目に入ってきたのは、森と二人並んで歩く名字の姿。

「どうする神尾、取られちゃうよ。ま、あっちのほうがお似合いかも。」

「お似合い」

走って逃げる俺よりも、一緒に歩いてくれる森の方が・・・?

「名字には俺の方が似合ってるっての!」

深司に一言言ってから、さっきおいてけぼりにした名字の方まで走り出した。

なんで俺、こんなにムキになってんだろうな。

どっか行った森はほっといて、名字と二人、並んで登校した。

なんだ、空綺麗じゃん。ゆっくり歩いたら、いろんなことが見えてくる。

綺麗な空に「はは、」と笑いながら、校門をくぐった。



 
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