夢と知りせば16/17
いつまで寝ていたんだろう。
不意にコンコン、とノックの音がした。
「あ、はーい。」
私がでないと誰も出てくれない。まったく、これだから一人暮らしはしたくないんだ←
「どなたですか〜?」
「今度こちらに越してきたものです。ご挨拶を、と思いまして。」
引っ越してきた?誰もそんなの知らせてくれなかったぞ。
大家さんに心の中で文句を言いながらドアを開けた。
「すいません、こちらも最近引っ越してきたばかりで・・・。
挨拶が遅れました、私・・・。」
頭を下げながらあけたので顔は見えていない。
「名前・・・。」
忘れない。この声。いつも私を呼んでいた、この声は。
絶対に忘れない、記憶。
「ゆう・・・・し。」
「名前!会いたかったで・・・。」
目の前にいたのは確かにいつか消えた君で。
確かに立体感を持っていて。
君が消えた日から君の乗っている雑誌も、グッズも、サイトも。
全部見なかった。捨てた。
君がこの世のものじゃないってことをまざまざと見せつけられてる気さえして。
「ほんとに、侑士だよね。生きてるんだよね。」
「ああ、生きてんで。ちゃんとここにおるから。」
そう言って侑士は私を抱きしめた。
「・・・・・・は。なんだ夢か。」
君が消えて何年たったか。
今でも鮮明に覚えている記憶をたどって神様が夢でも見せてくれたのか。
そんなことしなくていい。
いらない。
さめざらましを
(ただ、辛くなるだけだから)
あげて落とす。酷いひと。
夢としりせばさめざらましを
ある有名な俳句の下句です。国語で習った。
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