きみが愛しいと気づいたから

「もう、小松田くんっ。そっちの書類はこの棚にしまうんでしょ?」

「あれぇ、そうでしたっけ?」

「吉野先生がそうおっしゃってたじゃない…」


何度言っても違う棚に書類を入れてしまう小松田くんに、半ば呆れながら指示をする。


「…あとの仕事は全部私がやっておくから、小松田くんは正門の掃除と入門表の業務、お願いね?」

「えぇ!?でも、それじゃ滴さんに悪い気が…」

「適材適所。ほら、早く行かないと」

「そ、そうですねっ。じゃああとよろしくお願いします」


―まったく、本当にどっちが先輩なんだろう。

数日前からここ、忍術学園の事務員として就職した私は、年下だけど一応先輩である小松田くんよりも書類整理が上手だとかで、主任の吉野先生から書類整理などの仕事を任されるようになった。

ここのみんなは私を歓迎してくれた。私の素性を知らないから歓迎したのであって、知られてしまったら嫌われてしまうのではないかと内心びくびく怯えていたが、半助さんいわく「ここの生徒はそんなこと気にしないいい子ばかり」とのことで、少しだけ気を楽にして仕事をすることができた。
今のところ、特に不満に思うことはない。


さて。今日はこの仕事を鐘が鳴る前に終わらせて、その後に学園長先生にお茶をお出しして、それから…半助さんと一緒に晩ご飯を食べよう。
あぁ、早く部屋に戻りたいな。



***



「お帰りなさい、滴さん」

「やっぱり先に帰ってきてたんですね。私がお迎えしたかったのに…」

「いいじゃないですか。たまには、こういうのも」

「ふふっ…半助さん、夕食は食べてきましたか?」

「いえ、これから食堂に行こうかと」

「あの…私も一緒に行ってもいいでしょうか?」

「構いません。むしろこちらからお願いしようかと思ってたところです」

「よかったぁ」


予想していたよりも学園長先生とのお茶が長引いてしまって、部屋に戻れたのはもう日もだいぶ落ちかけていた頃だった。
今は事務員の部屋が満室とかで、用意できるまでは半助さんと同じ部屋で過ごすことになっている。

…前とは違ってきり丸くんもいなくてふ、二人きりだから…ちょっと気恥ずかしい。


「…半助さん」

「はい、何でしょう?滴さん」

「本当に、ありがとうございます。半助さんがいなかったら、今の私はありませんから」

「私なんかでよければ、これからも滴さんのお役に立てるよう頑張りますね」

「そ、そんな!頑張るのは私の方ですっ。これから、半助さんにたくさん恩返ししないといけませんから…」


私をこうして人の温もりに触れさせてくれた恩は、一生かけても返せないくらいの大きなことだから。
だから私はこれから彼のために生きようと決めた。…たとえ、胸に秘めたこの想いを押し殺してでも。


「恩返し、か…それじゃあ、滴さん」

「はい?」


「私と、結婚してくれませんか?」


「…うえぇぇえっ!?」


最初は理解できなかった言葉も、時間とともに私の脳内に浸透してきた。
結婚、という言葉にパニックを起こす。段々と頬も火照ってきた。えっ、嘘…私と半助さんが、結婚!?


「う、あっあの、え!?だ、だって私と半助さんが…えぇっ!?」

「ちょ、ちょっと滴さん、落ち着いてくださいっ」

「だ、だって私と半助さんが結婚って…そんなの…嬉しすぎるじゃないですかぁ…っ」

「!?」

「ずっと半助さんのことが好きだったのに、自分のせいで言えなくて…なのに、こんなに嬉しいことって…」

「そうだったんですか。それじゃあ、もっと早くに言えばよかったですね」


視界から半助さんの顔が消えて、ふわっとした土埃の匂いを感じる。
そして、手には温かい感触。それはいつもより固く結ばれていて…いわゆる『恋人繋ぎ』というやつだ。


「遅くなってすみません。…好きだ、滴」

「…はい。私も、半助さんのことが大好きです!」


耳元で聞こえる半助さんの声に、私自身も精一杯の返事をした。
その後もしばらくそのままの体勢でいたのは、きっとお互いに顔を見られたくなかったからだろう…こんなに真っ赤な顔を。


呪いなんて、最初からなかったんだ。お互いに素直になれば、こんなにも幸せになれるんだ…っ。



そしていつか笑うように眠る。
―――なぜなら二人は放たれてるから。



Happy End!!

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