やっと素直になれたからで、

半助さんから告げられた、私の秘密。
絶対に知られてはいけなかった、知られたらもうこうやって一緒にはいられなくなるって分かっていたのに、現実というのはどうしてこうも私に残酷なんだろうか?


「は、半助さんっ…誤解、って…?」


握られた手のひらが少し痛い。それは彼が力を入れているのか、それとも私が動揺して強く掴みすぎているのかは、思考がはっきりしていない私には分からない。


「…そうですよ。私の両親は『大罪人』なんです。人を殺そうとした、とっても悪い人で…そして私は、そんな二人の娘なんですっ忌み嫌われて当然な存在なんですよ!?」

「落ち着いてください滴さん!別に、私はそのことについては何とも思っていないんです」

「嘘っ!みんなそうやって、私のこと分かった振りをして騙す。心では気持ち悪い存在だって思って、そうやって蔑まれてきたんですよ!?」


―――所詮、私は悪人の娘なのだから。

だから、高望みなんてしちゃいけなかったんだ。人並みの幸せなんて、誰かと一緒に暮らしていくことなんて…恋なんてしちゃいけなかったんだ。
絶対に報われない、辛い結果になるなんて分かりきっていたことだったんだから。


「…貴方のご両親が大罪人なら……私の方がよっぽど悪人だ」


半助さんはまっすぐに私の目を見てくる。でも、かく言う私はどんなに頭の回転を早くしても、今の半助さんの言葉を理解することはできなかった。

半助さんが…悪人?こんな私に手を差し伸べてくれた優しい彼が、悪人であるはずないのに。なのに、どうして?


「滴さん。貴方は、私の職業を知らない」

「?…はい。でも、どこかの学校の先生ってことは…きり丸くんが半助さんの生徒ってことは知って」

「忍者です」

「……えっ?」

「私は、忍者の学校の先生をやってます。そして、きり丸は私の今の教え子の一人です」

「にん、じゃ…」

「貴方のご両親は、たぶん忍者だったんだと思います。城の殿の暗殺の依頼を受け、そして失敗した。世間に二人が『忍者』ということが知れ渡って『大罪人』と呼ばれるようになった…と、忍術学園にある文献に書かれていました。さすがに、娘が一人いるとまでは書かれていませんでしたが」

「………」

「私は、貴方がおそらく嫌っているであろう両親と同じ『忍者』という存在です。それも、その殺しの技術を子どもたちに教える先生という立場。…滴さん、貴方はこんな私のこと、どう思いますか?」


忍者?…知ってる。城に仕えて合戦場で敵と戦ったり、情報を集めたりする人たちだってことは。
でも、半助さんと、それに両親も忍者…依頼に失敗したから、『大罪人』と呼ばれている…!?

え、分からない分からない分からない分からない分からない!!

頭が思考理解することを放棄しているかのように『分からない』の言葉しか出てこない。それを振り切って口から漏れた言葉は、自分自身に対する謝罪の言葉だった。


「…ご、ごめんなさいっ」

「!!…そうですか」

「あ、ち、違いますっ!半助さんが嫌とかではなくて…自分自身が、嫌になってしまって」

「…どういうことですか?」

「今まで一人で生きてきて、悪いのは全部両親のせいだと思いこんで…結局自分自身で努力をしなかっただけなんじゃないかって。そう思ったらなんだか…自分が、すごく悪い子みたいに感じて」


実際その通りだ。親のせい、親のせいと言い訳にして本当は何も努力していなかった。
少し勇気を出してみれば、世界は変わるって気づかされた。
それもこれも、全部、半助さんのお陰なんだ。


「私、今まで必死に生きていてよかったです。半助さんみたいな人もいるんだなぁって、知ることができたから」

「私みたいな人って?」

「私のことを知っても、心から慰めてくれる人です。…私、半助さんのこと怖いとは思いません。逆にすごくすてきだと思います」

「…でも、私のやっていることは殺しの技術を教えることですよ」

「それだけじゃないでしょう?半助さんは子どもたちが『生きるため』のことを教えてる…私に、手を差し伸べてくれたように」


あの優しい温度に触れなければ、私は今ここにはいない。それどころか生きるのを諦めていたかもしれない。
この世には、こんなに素敵な人やものがあることも知らずに。


「…私、高望みはしないって決めてたんです」

「??」

「半助さんが私のことをどう思おうと、私がここにいること自体が半助さんの迷惑になります。だから、このことを知られた時点で私はここを出ていこうと決めてました」

「…行く当てはあるんですか?」

「分かりません。たぶん、前みたいに林檎を売って生活していくと思います」

「それでも貴方に対して世間は冷たいでしょう。私は最初は君のことを知らなかった。でも、そんな人がこれから現れてくれるとは限らない」


半助さんの言っていることは間違いなく正論だ。私自身、前みたいに町で生活できるとは思わない。
季節によって採れる林檎にも限りがあるし、そもそも買ってくれる人なんてめったにいないんだ…それこそ、半助さんくらいしか。


「滴さん」

「??」


「もしよかったら、私の職場で働きませんか?」



―――今よりは、少しは生きやすいですよ。

そう言って差し伸べてくれた手を、今度は迷わず握り返した。
人の肌は、林檎よりもずっとあったかい。

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