廻りまわってあなたのところへ
※転生ネタです、お気をつけください
…以上の出来事すべてが、数百年以上も昔の私の記憶だ。
不思議なことに私には前世の記憶というものが残っていて、忍術学園のことだとか雷蔵や八左ヱ門、兵助に勘右衛門のことだって昨日のことのように思い出せる。
もちろん、鏡先輩のことだって。
「鉢屋ぁ!!お前何ぼーっとしてるんだ、集中しろっ」
「…すみません、先生」
今の私は高校二年生。
もちろん忍者の学校なんてものじゃなく、ちょっと皆より成績も運動神経も優れている普通の高校生だ。
「三郎、さっき先生に叱られてたよな」
「だっせーの!」
「うるさいぞ、お前ら!」
そう言って私の隣で笑う友もあの頃とは違う。
どうして私だけ前世の記憶を持って生まれてきたのだろうか…先輩は、どこにいるんだろうか。いつでも私の脳裏には、あの時…先輩が最後に見せた笑顔が映っているんだ。
***
ある日の放課後、同級生がこんな話題を持ち込んできた。
「おい知ってるか、隣のクラスに転校生来たんだって!」
「マジ!?男?女?」
「女子だってよ。結構可愛いらしいぜ」
「三郎ーお前も気になるだろ?」
「…別に」
「ちぇっつまんねーの」
「知ってるだろ?俺はもう、心に決めた人がいるんだ」
「はいはい、知ってる知ってる」
「誰なのかは知らねーけどな」
「お前らなんかに教えてやるかよ」
「「うわっひでぇww」」
後ろでけらけら私のことを笑う同級生に若干腹が立つが、いつものことなので軽く受け流す。
その後、部活があるあいつらとは別れた。
私は部活動はしていない。時間があるなら鏡先輩を探していたいからだ。
そう。私の想い人は、もちろん鏡先輩。
「…行くか」
今日も先輩の捜索開始。一人で街の方まで行ってみようかな。
***
今日も先輩はどこにもいなかった。あんまり期待はしていない。だって見つからないことが、いつものことだから。
私は夕方頃に今日の捜索を諦め、仕方なく家路についた。
自分でも「先輩じゃなく他の恋を探せばいい」とか思わなくもないが、なぜだろう…最後に先輩が言った「行ってきます」が心に引っかかって仕方がない。
きっと、私が「おかえり」って言うまで消えないわだかまりがあるんだ。
「…あの……」
知らない声に呼び止められて思わず振り向く。
そこには、夕焼けに照らされた一人の少女の姿。快活そうな笑顔に髪は切り揃えられたショートカット。
私と同じ制服を着ているということは同じ学校なのだが…見たことがない顔だ。
……いや、違う。見覚えがありすぎる顔だった。
髪型こそ違えど、笑顔も声も、私が探していた人と瓜二つ…。
「三郎」
名前を呼ばれて、その期待は確信に変わった。やっぱりあなたは…。
「鏡先輩…」
「やっぱり、三郎は覚えててくれたんだね」
「先輩…先輩…!!」
何でこんな、何でもないような風に現れてくるんですか…。
思わず涙をこぼしてしまった格好悪い私の頭を、先輩はぽんぽんと叩く。そのからかったような笑みも、昔と同じ。全部同じの、本物の先輩だ。
「三郎はずっと…私のこと探しててくれたんだね」
「…そうですよ」
「ごめんね…だいぶ待たせちゃって」
「本当ですよ。私、どんだけ頑張ったと思ってるんですか…先輩…」
「先輩、か…ねえ三郎。私、もう先輩じゃないんだよ」
「…??」
「三郎と同じ制服着てるでしょ?私、今日転校してきたんだ。ほら、隣に転校生来たんだよーって噂、聞かなかった?」
「…聞きました」
なんと、あの噂は先輩についてだったなんて。
もっと詳しく聞いておけばよかったなんて、今となってはどうでもいいことなんだが。だって、ちゃんと先輩は今ここにいるんだから。
「先輩…じゃなかった。鏡」
「な!名前で呼ばれるのって結構恥ずかしいなっ」
「じゃあ何て呼べと?」
「…相変わらず三郎は意地悪だなぁ」
「お互い様だよ、鏡」
「ふふっ……ねぇ三郎…ただいま」
「…おかえりなさい」
初めて、初めて先輩に「おかえり」と伝えられた。
数百年越しのお互いの想いが、今、伝わったんだ。
廻りまわってあなたのところへ(行ってきます、行ってらっしゃい)
(ただいま、おかえり)
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[mokuji]
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