アイリスに口づけを

「…これでよし、と」


下地を丁寧にぬってファンデで毛穴を隠し、マスカラとアイラインを引きナチュラルな色のチークをのせる。最後に薄付きピンクのリップを一塗り。


「我ながら…完璧だね」


今日は待ちに待った兵助とのデートだから、いつもよりずっと早起きしてメイクも完璧にした。
全ては、兵助に釣りあう人になるため。だから、私は何でもできちゃう。


「…っと、そろそろ時間か」


彼氏である兵助は優しいけど真面目な人だから、きっと時間厳守じゃなきゃだめだろう。急いで家を出なければ。

私は玄関の全身鏡の前でくるっと一回り。うん、今日も可愛い。



***



「今日はすっごく楽しかったよ」

「そっか。悠歌が喜んでくれたから、俺も嬉しいよ」


デートが終わったあとの何気ない会話が私は好きだ。
今日一日を振り返って、見た映画のどこが面白かっただとかを話す。ずっと続けばいいのにという時間だ。

少しの沈黙のあと、兵助は伏し目がちになった。
私は彼の長いまつげがやたら気になって、握られているお互いの手に力がこもったのを感じた。


「??兵助、どうしたの?」

「…悠歌、こっち向いて」

「ん、いいけど……!?」


兵助と目を合わせた瞬間、正直何が起きたのか分からなかったけど、さっきまで気になっていたまつげがやたら近いことだけは理解できた。

もう一度兵助は顔を寄せて、今度はちゅっと音を立ててまた離れていった。

あぁ、そっか。キスをしたんだ。兵助と。


「…へいす、け??」

「その顔、可愛い」

「…リップとれちゃった。兵助についてるかも」

「別にいいよ。それに、そんなに着飾らなくてもは悠歌は十分可愛い」

「もう!……そう言う兵助も、十分かっこいいよ」

「ん?何か言ったか、悠歌??」

「なんにもっ」


何で兵助は、そうやっていっつも私が欲しい言葉をピンポイントで当ててくるんだろう。
こっちはドキドキが止まらないっていうのに、向こうは余裕みたいで…何か悔しいじゃないか。

私は仕返しという風に彼に声をかけ、一生懸命背伸びして、頬にキスしてやった。
もちろん、リップ音つきで。


「!?お、お前なぁ…」

「好きだよ、兵助」

「…俺も。愛してるよ、悠歌」


愛してるなんて、普段の兵助はあんまり言ってくれない言葉だ。それなのに、この状況がそうしているんだろうか。

そのまま手を繋いで帰る私たちの頬が赤かったのは、気のせいじゃないと願いたい。



アイリスに口づけを
(一生、大切にするから)



アイリスの花言葉…あなたを大切にします

により様へ。相互記念に捧げます!!

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