確信犯
いつもは格好いいって言われている君だけど、意外と可愛い一面もあるんだよね。
でもそれは、僕だけが知ってればいいんだよ。
***
「…伊作先輩」
「あぁ、悠歌。来てくれたんだね」
「そりゃぁ、呼ばれましたので」
ある日の夜、忍たま長屋にて。
伊作先輩に「少し用事があるから夜に部屋に来てほしい」と言われ、仕方なく屋根裏から忍び込んだ。
「今じゃ駄目な用事ですか?」と問うも絶対夜でと念を押された。
そこまでのこととは一体何だろうか。
端正な先輩の顔も相まってちょっとドキドキする。
「食満先輩はいないんですね」
「うん。用具委員会の仕事だって」
「そうですか。で、用事って何ですか?」
「ちょっとね…たまには、お酒でも一緒に飲もうかと思って」
「…潮江先輩が聞いたら本気で怒りそうですね」
「三禁だからね。でもたまにはさ、いいだろ?」
「はい、喜んで」
そう言う先輩の手には一瓶の日本酒。
なるほど、それは夜じゃなきゃ駄目だろう。
まぁたまには酒盛りもいいし、会えなかった時間を埋めたいとか思ったし。
雰囲気につられて僕は部屋の座布団の上に腰掛けた。
***
飲み始めてから数十分、会話も挟みながら飲んでいたけど、お互いに大分酔いが回ってきたみたいだ。
僕はそんなに弱くはないが強い方でもないから、はっきり言ってもうそろそろ限界だ。
伊作先輩も心なしか少し顔が赤い。
「伊作先輩…僕、もうそろそろ」
「ん?もう限界?…顔赤くなってるね」
「そりゃ、お酒飲んでますから…明日も授業あるんで、もういいでしょう」
「そんなぁ、まだまだこれからだよ」
伊作先輩、ちょっと駄々っ子っぽくなっている。
無理矢理にでも部屋を出ようとしてると、引き留めようと先輩が腰に手を回してくるのでそれをあしらっていると、不意に僕の耳元に口を寄せ小さな声で、だけどはっきり聞こえるように囁いた。
「ふふっ…好きだよ、悠歌」
「!ず、ずるいですっ。今、言うなんて…」
「今だから言うんだよ。可愛い僕の悠歌」
「…伊作先輩、かなり酔ってますね」
「悠歌もね。僕知ってるよ、悠歌は酔うとすっごく女の子らしくなるってこと」
そんなこと誰に聞いたのか…。
そのことを真剣な表情で考えていて、先輩はそれが面白くなかったのか、いきなり腕を掴んで床に押し倒し僕の夜着に手を這わせた。
酒を飲んでいたからか、先輩の手はいつもより熱い。
「や、っちょ!…恥ずかしいんで、あんまりそんなこと言わないでくださいっ」
「それは無理かな。だって、これから悠歌を食べちゃうんだから、もっとたくさん可愛いって言いたいし」
「…へっ!?」
「ほら、据え膳食わぬは…ってね」
そう言う先輩の顔はすごく楽しそうだった。
今日は食満先輩はいなく、六年長屋も大分静かで、その時僕は今回のことは全て仕組まれていたことを悟った。
結論。
伊作先輩は爽やかスマイルで僕を捕らえる確信犯だった。
確信犯(毎回騙されている自分もどうかとは思うが)
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