溶かして

ねぇ、男は狼なんだよって、何度言ったら分かるのかな?
きっと君は俺以外の男が部屋に来ても、何食わぬ顔で迎え入れるんだろうな。

でも…そろそろ俺も、限界みたいだ。


***


「ここはxを微分して公式にあてはめるんだよ」

「…あ、本当だ」

「じゃあ、ここの値は?」

「xイコール…3?」

「正解、やれば出来るじゃないか。じゃあ残りの問題も、今と同じようにやってごらん」

「はーい、兵助先生」


家の都合で高校に通えず、バイトで生計を立てている私にとって兵助くんが家に来て勉強を教えてくれるこの時間は、唯一同年代の男の子と触れあうことができる時だった。
もっとも、兵助くんには全然そんな気はないんだろうけど。
意識しすぎてる私は、やっぱり変なのだろうか。

そんなことを考えていたからなのか、不意に兵助くんが机と向き合ってる私の顔を覗き込んできた。

艶々の黒髪、ぱっちりした瞳。どれをとっても魅力的で女の子の私でも全然敵いそうにない。


「悠歌…集中してなかっただろ」

「そ、そんなことないよ…」

「嘘。お前はすぐに顔にでるからな。あと、手が止まってたし」

「うぅっ(顔が近いよ!)……」

「…ねぇ、何考えてた?」

「えっ…!?」

「もしかして、俺のこと考えてくれてた?」


今日の兵助くんは本当にどうしちゃったんだろう?
思わせぶりなことばっかり私に言って…まさか…いやいやそんなはずはない。
兵助くんと私はただの家庭教師と生徒だし、第一兵助くんが通っている学校にはいっぱい可愛い女の子がいるらしいし。

私なんかがこんなに美人さんな兵助くんに釣り合うわけがないじゃないかっ!?


「へ、兵助くん…今日はなんか変だね…」

「…そうかもな。今日は、悠歌が気になって、教えるのに集中できない」

「わ、私も…兵助くんがかっこよすぎて、集中できないよっ」

「っっ!!…そういう可愛いこと、他の男にも言ってないよな?」

「か、可愛いって……ふわぁっ!?」


言葉の意味を計りかねていると、私の軽いとは言えない身体を兵助くんはいとも簡単に押し倒してきた。

机の後ろにあったベッド、背景には白い天井と美人さんな兵助くん。
私の髪をなでる手はどこか優しく、でも目は野生の狼さんみたいな目で…その普段と野違いにちょっとどきっとした。

今日の兵助くんはなんだか変だけど、それを嬉しいって思っちゃう私もきっと変なんだね。


「俺、心配なんだ。悠歌が他の男にもそういうこと言ってるんじゃないかって…俺だけに向けられた言葉じゃないんじゃないかって」

「他の人なんていないよっ。私には、兵助くんだけなんだから…!」

「…また、そういうこと言う」


そう言って兵助くんは食べちゃうんじゃないかと思うくらいの強さで、私の唇に吸いついてきた。
ちゃんとリップクリーム塗ったっけ?
でも、そんなことはどうでもいいと言うように何度も何度も唇を重ね合わせていく。


「んっ…ぅんんっ!!」

「ははっ、可愛いよ悠歌…今日は、止められないからな」

「…うん」


何度も何度も長い口づけ。
息苦しくて、兵助くんの胸をたたいて教えたら、耳元で甘い声で囁かれ、一気に体中が熱くなった感じがした。
熱っぽい視線が私に向けられてるのを見て、さらに興奮してしまう。

あぁ…もう、どうにでもなってしまえ。



溶かして
(溺れたいの、貴方の全てに)

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