例えばこんな最後なんて、

目の前で、愛しい人の腹が突き刺されるところを見ることになるなんて…誰が想像しようか?



***



「ごめんね…っ」


それは何に対して謝ったのか。今となってはもう聞く術なんて存在しない。

目の前にいる悠歌の体は血に濡れていて、口を開けるのが奇跡みたいなものだったから。



「っ…もう、もう喋らなくていい!すぐに保健室に連れてってあげるから…悠歌っ」

「いい、の…もう助からないって、数馬なら分かるでしょ?」

「お願いだから!じっとしててよ!」


なんでだろう。涙が止まらないや。僕らはもうちゃんとした忍者なんだから、感情なんか捨てたはずなのに…

対する悠歌は、切羽詰まった僕なんかよりもずっと安らかな顔で夜空を見上げている。
その目がもうすぐ閉じられて、もう絶対に開くことはないんだと思うと…怖い、恐いよ。


「!!そ、そうだっ包帯、包帯…」

「お願い、喋らせて…っ」


包帯を探そうとする僕の腕を悠歌の手が掴む。
悠歌は最後の力を振り絞り、僕ももう涙で前が見えなくて…お互いに訳が分からない。


「学園で過ごした毎日、とっても楽しかったよ」

「…」

「いっぱい迷惑かけちゃったけど、怪我して困らせちゃったけど…それでもあたしは数馬を好きになったの」

「……」

「数馬もあたしが好きだって言ってくれて、本当に嬉しかった。それこそ…死んでもいいって思えるくらいに」

「……なん、だよ」


だからって、僕の前で死ぬことはないじゃないか。
僕に更に悲しみを与えてどうするつもりなんだ、悠歌は。

確かに悠歌は僕を沢山困らせた。
忍たまに負けないくらいやんちゃな彼女はいつも怪我が絶えなかったし、そのくせ治療が嫌いで、染みたり苦かったりする薬なんてもってのほかで…伊作先輩や左近や乱太郎や伏木蔵も困らせて。


「本当っ、悠歌はしょうがないんだから…!!」

「…」

「それでも僕は、悠歌を好きになったんだ。悠歌じゃなきゃダメなんだよ…っ」

「………」


僕がいくら名前を呼んだって、悠歌はもう目を覚ますことはない。
いつしか握られていた腕も力なく解けていた。

月灯りに照らされた悠歌の睫毛がやたら魅力的に思えて、思わず僕はキスをした。
勿論、温度なんて感じない。



ねえ、伊作先輩。

僕は、愛した人一人も護れないダメな男でした。



「…ごめんなさい」



僕は、保健委員長失格です。


静かに自分の装束の中に手を入れ、赤い紐が結ばれた薬瓶を取り出し、一気に煽った。

そして…悠歌の横に寝転がる。



「…一緒に死のう?」



こんな僕を悠歌は責めるのかな?悲しむかな?泣いてくれるかな?

出来れば…ずっと一緒に、笑っていたいな。



例えばこんな最後なんて、
(素敵だと思えるでしょう?)

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