Take Five

おかしい、絶対おかしい。ここ最近特に、だ。

注文されたサンドウィッチを作ろうとして業務用のパンを袋から出してみると、明らかに前回見たときより数が減っていた。
実はパンだけじゃない。冷蔵庫にあったはずのチーズやパフェに使うお菓子類もだ。
それらの注文がそんなにないことはレシートをチェックしていたから知っていたし、食品衛生的によろしくないネズミやなんかの仕業だとしてもさすがにここまで大きいものを持っていくわけないだろう。

そんな事実をこの喫茶店『take five』の副店長である三郎(ちなみに同級生、同い年のくせに…ちっ)に報告すると、すぐさま厨房へ向かいふんふーんと上機嫌だった勘ちゃんの頭をパシンと平手で打った。


「痛っっっ!?」

「だから、つまみ食いするなっていつも言ってるだろ勘右衛門!」

「えぇー、少しだからいいじゃん。見逃してよ三郎」

「か、勘ちゃんのせいか!パンとかお菓子が減ってたのは!」

「うん、そうだよ」

「お前はもう見逃せないくら食ってるだろ。反省しろ」


ぐちぐちと続いている三郎の小言を勘ちゃんは「姑さんみたいだよ」と一蹴してまた鼻歌を歌いだしてしまった。
私からもお願いだから、ちょっとは反省してよ!お腹空くのも分かるけどさぁ…さすがにそれはダメだと思うんだよね!


「おい、誰かこいつと厨房変わってくれ!」

「…今売り上げ計算中、忙しいのだ」

「俺と雷蔵もパス」

「新メニュー会議してるんだ。ごめんね」

「となると残りは…」

「…え?私?」

「「「「「いや、悠歌はないから」」」」」

「みんなで声揃えて言わなくてもいいのにっ」


みんなが私を見る。それは私に期待してる目なんかじゃなくて、どれも「頼むから何もやらかさないでくれ」と懇願するかのような慈愛と悲壮感に満ちた瞳…なんか複雑!


「いや、だって悠歌の料理はさぁ…」

「兵器?」

「っていうか凶器?」

「あれは最早悪意の塊だよ」

「悠歌ちゃんに料理はちょっとレベルが高かったみたいだね」

「み、みんな辛辣過ぎるよ…っ」


三郎が苦い顔をし、兵助は依然レシートを見つめながら淡々と告げ、八と勘ちゃんはそれに乗っかってくる。
雷蔵、それフォローになってない!いくらポジティブな私だって、ここまで言われると傷ついちゃうよ…。

あ、分かったこれが飴と鞭だな!?この激辛な苦言を乗り越えてこれから頑張れって意味だよねそうに決まってるよね!?


「だからさ、悠歌はフロント業務やってくれればいいから」

「厨房は俺と三郎に任せてね」

「勘右衛門を起用するのは、少し考えさせてもらう」

「え、何で!?」

「「「当たり前だろ」」」

「みんなして酷いなぁ」


…ああそうですか無視ですか。いつの間にか話題は勘ちゃんの厨房での働きぶりについてに戻っているし、いくら私が厨房を覗こうとしても三郎に阻まれて入れてもらえないし!
ああ、やっぱりサンドウィッチしか作らせてもらえないんだろうなぁ…軽食作ってみたいなぁ…。
そんな希望願望たっぷりのうるうる光線を向けてみたけど、みんなには効き目はこれっぽっちもない。ちぇっ。


…え?何で店名が『Take Five』って言うのかって?
ふっふっふ、それはね…『take five』って言葉には『小休止』って意味があるんだって。
だから、ここの店長さんが「誰でも気軽に楽しく小休止がとれる喫茶店をつくる」とか意気込んで勢いで命名しちゃったんだって!

…って理由だった気がする。多分。


その店長さんは今いないし、仕事ほとんど私たちに任せっきりだし、売り上げはいまいちでバイト代はそんなに高くないけど…それでもこの場所がいいって思える理由。それはね…


カランコロンと店のドアについているベルが鳴った。
その音にさっきまでだらだらしていた勘ちゃんも、うなだれていた三郎も、書類とにらめっこしてた兵助も、テーブルを挟んでうんうん唸っていた八と雷蔵も、もちろん私も、みんな仕事の顔になった。
仕事の顔っていっても常に笑顔で!みんなにハッピーをあげる感じで(よく分からん)。



「いらっしゃいませ!『テイクファイブ』へようこそ!」



みんなの声が綺麗にハーモニーを奏でた。
これ!こういう感じを味わえるから、私はこの職場が大好きなの!!



Take Five
(ちょっと休んでってくださいな!)

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