この気持ちに名前をつけるとしたら
先月僕に告白してきた彼女…悠歌と一緒に虫の世話をするようになって、いくつか気づいたことがある。
「い、伊賀崎くん…これって食べさせても大丈夫?」
「問題ないよ…あ、そっちのは止めといて。お腹壊すかもしれないから」
「うん、分かったよ」
そう言って僕と一緒にみんなの餌である虫を探す。
彼女は飲み込みが早く、要領もいいみたいだから作業が早い。それに、僕が一度言ったことはちゃんと覚えて守ってくれる。だからジュンコたちもすぐに彼女に懐いた。
「…そろそろいいかな。これだけあれば足りると思うし」
「そっか、分かった。じゃあもう帰るの?」
「うん。早く食べさせてあげたいから」
「そうだねっ」
そう元気良く返事する彼女は、僕の目から見てもどこか楽しそうで。
最初は無理していたみたいなのに、もう僕が飼っている生き物にも慣れたみたいだ。本当に彼女は努力家である。
帰る途中、僕はなぜか彼女のことばかり考えていた。
いつも考えるのはジュンコたちのことなのに、人間のことを考えることがあるなんて…僕が一番疑問に思っているっていうのに。
そして彼女は、そんな僕の気持ちも知らないで前を歩いている。なんて暢気なんだろう。
だから、道に咲いている小さな花がいつもより輝いて見えたとか。こんなの、ただの偶然で、ただの気まぐれなんだ。
彼女から少し離れて、僕の視界に入った白や紫色の花を数本ぷちぷちと摘み取る。
ごめんね、花。これからは彼女に愛でられて幸せになるんだ。
「悠歌」
「何、伊賀崎くん…うわぁ!」
花束でもなんでもない、ただ摘んだだけの花たちを彼女に差しだしだ。
もう少し時間と材料があればリボンとか結べたのにな…なんて、そう考える僕は女々しくて気持ち悪かったけど。
「綺麗な花だね。名前はなんて言うの?」
「知らない。あ、それ毒草だから」
「どくっ!?」
「食べなければ大丈夫だよ」
「えっと…何で私に花をくれたの?」
「…ただの気まぐれかな」
「そっか…でも、なんか嬉しいな。ありがとうっ」
「…悠歌」
「今日の伊賀崎くん、優しいね」
お願いだから、そんな顔で僕を見ないでほしい。少し赤く染まった頬と、彼女の優しさに満ちた目はどこか泣きそうな感じさえする。
僕でさえこの気持ちを理解することができないのに、君は僕の何を見ているのだろうか。何を見て、いいと言ってくれるんだろうか。
「僕は、優しくなんか…」
「優しいよっ。だって、私が無理言って一緒に生き物の世話してるわけだし」
「ううん。僕もお礼を言わなきゃね。一ヶ月間、僕の手伝いをしてくれてありがとう」
「そ、そんなっお礼なんて…」
「君さえ良ければなんだけど…これからも、僕と一緒に生き物の世話をしてくれないか?」
これか。僕の本心は。自分でも分かっていなかったけど、考えるより先に言葉が口から出てしまう。そうか、僕は彼女といる時間を大切に思ってたんだ。
そう告げた時の彼女は、最初は戸惑っていたようだが、それから目にいっぱいの涙をため込んで僕に微笑んだ。
「よ、よろこんで!!」
笑いながら泣くなんてなんて器用なことをするのだろう、彼女は。とか考えてた僕の頬にも何かなま暖かいものが。
あれ…なんだろう?僕は自分が分からなくなった。分からないから、ただただ二人で泣き笑いするしかできなかった。
さりげなく彼女と手を繋いで帰る途中、ふと『愛する人を守れるように、人は生きてゆくのかな』という歌を聞いたのを思い出した。
この
気持ちに名前をつけるとしたら
(それは『恋』なのかもしれない)
song by やさしい花(奥華子)
[ 25/30 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]