Campanula

「ったく…おい!どこにいる悠歌っ」


俺の日課は迷子捜索じゃねえんだよ!!
同級生の左門、三之助もよく迷子になり、その度に俺が捜索しているが…なぜかそれで俺に『保護者』というイメージがついてしまったらしく、くの一教室一の迷子である悠歌の捜索も俺に任されるようになってしまった。

今日も悠歌は迷子である。最後の目撃情報はこの裏裏山の中らしく、休日返上で俺が捜索中だ。

必死に走っている俺の目の前の茂みが揺れる音がした。
立ち止まって確認してみると、案の定そこにはくの一の桃色の制服。そしてそれを纏っているのは俺が探していたこいつ。


「悠歌!!」

「んー…あ、作ちゃんだ」

「お前っ…すごく探したんだぞ!心配させやがって」

「えへへ、ごめんなさい。忍術学園の場所わかんなくなっちゃって」

「…ったく」


いつものことながら全然反省している様子がない悠歌。
俺は呆れながらも、こいつの頭巾がほどけかけていたので仕方なく巻いてやる。その間のこいつの嬉しそうな顔といったら…

悠歌の身支度も終わったことで、そろそろ学園に帰らないと左門や三之助も心配するだろなぁ…と思っていた俺の腕を悠歌が引いた。


「作ちゃん!ここにすっごいキレイな花咲いてるんだよー」

「花?」

「うん、これっ」


彼女が指差した先にあったものは、白や紫色をした本でも見たことがないような花だった。小さな鐘のようなその形になぜか心奪われる。


「すっげー…見たことねえな」

「私も見たことないよー。帰ったら竹谷先輩とか孫兵に聞いてみよーね!」

「……いや、聞かなくていいんじゃね?」

「??」


悠歌は意味が分からないと言いたげな表情で首を傾げた。
その動作いちいちが、なんかこう保護欲というか…ああもう、可愛いんだよ!
それに、この花のことを俺と悠歌だけの秘密にしたいなんて…そんな恥ずかしいこと言えっかよ!!

たぶん羞恥で真っ赤になっているであろう俺に構いもせず、悠歌はずっと花を見続けている。


「いつもありがとーね。作ちゃん」


いきなりの俺への感謝の言葉に、びっくりして悠歌を見てみればいつもと変わらない表情。


「な、なんだよ急に!!」

「んーっとね、この花を見たらね、なんか作ちゃんにお礼言いたくなったんだ」

「お礼言うくらいなら、もう迷子にならないように努力しろよな」

「うん、気をつけるよ」

「…ま、いいや。帰るぞ」

「はーい」


もう迷わないなんてきっと無理だろうけどな。

そう頭でも身体でも分かっている俺は、悠歌の手と俺の手をぎゅっと繋いだ。
それはこいつが迷子にならないようにするためだが…なんとなく、お互いに手を繋いで帰りたい気分だったんだ。

こんな綺麗な花を摘み取ることなんて俺たちにはできなかったから、その色や形をこいつの笑顔と一緒に目に焼き付けてからその場をあとにした。



Campanula(カンパニュラ)
(ありったけのありがとうを、あなたに)


花言葉…感謝、誠実

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