助言と考察

※ドラマCD五年生の段、ネタバレ有












「…喧嘩、したの?鉢屋と?」


急に部屋に訪ねてきた雷蔵は、さっきあったという同級生たちとの出来事を僕に話して聞かせた。
雷蔵の顔はかなり陰っていて、いつもの明るい雰囲気はどこにもない。


「どうしましょう…僕、勢いとはいえ『絶交だ』なんて三郎に言っちゃって」

「うん。でもそれって、鉢屋が悪いんじゃないかな?雷蔵はいつもそれに付き合ってたんだから」

「でも、もしずっとこのままだったらって考えると…僕から謝るべきか、まだ待つべきか…」

「たまには一人の時間も必要だと思うんだけど…でもそうだよね、もし仲直りできなくて…二人ともずっと一人ぼっちで…それで卒業なんかしたら…」

「ちょ、悠歌先輩っ。考えすぎないでください!」

「ご、ごめんっ」


雷蔵の相談を聞いてるはずだったのに、いつの間にか私の方が考えすぎを雷蔵に止められてしまった。これじゃ先輩としても、恋人としても失格なのかな…。


「…悠歌先輩、今もしかして『自分は先輩失格』とか考えませんでした?」

「ど、どうして分かったの!?」

「悠歌先輩のことなら、なんでも分かりますよ。…大丈夫です。先輩が考えすぎて僕が止めるなんて、いつものことじゃないですか」

「…うん。まぁそうだよね」


確かにいつものことだけど、本当にこれでいいんだろうか…。
私の部屋には心地よい風が吹き、雷蔵のくせっ毛がふわふわした。本当に鉢屋と同じ顔で…あ、そうだ。


「…雷蔵。今『私のことなら何でも分かる』って言ったよね」

「??言いましたけど…」

「鉢屋のことは?」

「………」

「鉢屋のことも、雷蔵は分かってるんじゃないのかな?」


雷蔵には人の喜び、悲しみ、悩みなんかを理解してくれる力があるように感じる。
だから私は雷蔵に惹かれたのかもしれない。寂しかった私の心を、雷蔵は理解して埋めてくれたんだから。

だから、雷蔵は僕のこと以上に鉢屋のことを理解しているはずなんだ。


「…そうですね。三郎とは一年の頃からずっと一緒でしたから、お互いのことはよく知ってます」

「うん。たぶん鉢屋は私よりも雷蔵のこと知ってると思うよ」

「………」

「鉢屋は、雷蔵のことどう考えてると思う?」

「…僕はあのことを勢いで言って、三郎自身もそれは分かってると思います。ただ、それをお互い認めたくなくて…」

「そうだね。お互い、意地ばっか張っちゃってる」

「たぶん、どちらかが折れればすぐに解決するんでしょうけど…」

「けど?」

「お互い、何かきっかけがないと折れないと思います」

「うん、よくできました」


やっぱり雷蔵はすごい。自分で一生懸命考えれば自分でどうすればいいのか答えが出せる…そう、私がいなくたって。


「そこまで雷蔵は自分と三郎のことよく分かってるんだから大丈夫だよ」

「??大丈夫って…」

「雷蔵は何もしなくて大丈夫ってこと」

「えぇっ!?でも、僕が謝らなきゃ…」

「雷蔵が謝ったって一時はよくなるかもしれないけど、また喧嘩しちゃうよ。原因を解決するためには、鉢屋に謝ってもらわなきゃ」

「…それは……」

「雷蔵は迷わないで待ってればいいよ。…鉢屋を、信じて」


だって雷蔵は、鉢屋のこと一番よく分かってるんでしょ。

そう言葉には出さなかったけど、ちゃんと伝わったみたい。
さっきよりも幾分か晴れやかな顔をしている。うん、その方が格好いいな。


「…ありがとうございます。そうしてみます」

「うん、よかった」


襖を開けて、もう帰るのかと思ったら雷蔵はいきなり方向転換し、私の方へもう一度歩み寄った。
気がつくと予想外の近さにいた雷蔵の顔に僕の胸が高鳴る。落ち着け、落ち着くんだ自分!!


「ら、雷蔵っ」

「悠歌先輩」

「な、何かな!?」

「さっき『三郎は先輩よりも僕のことを知ってる』って言いましたよね?」

「う、うん…雷蔵?」


触れるだけ、そんな優しくて柔らかい接吻を僕のおでこにしたあと、雷蔵は外へ出ていった。


「悠歌先輩は、これから、もっと僕のこと知ってくれればいいです」


そんな小さな声で呟いたこともしっかりと僕の耳に届いた。
きっと、聞こえるように言ってくれたんだと思うのは気のせいじゃないはずだ。



助言考察
(また一つ、知ってることが増えた)

[ 18/30 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -