もう直らない壊れものの話

中学校を卒業して、兵助だけがみんなと違う進学校へ行くことになった。
兵助は学年でもとびきり頭がよかったから、それを期待してなのか親が行けと言ったらしい。それと、もう一つの理由。


「ねえ兵助、あんな頭の悪そうな人たちと話すのはやめてちょうだい。あなたは『特別』なんだから」


そう兵助のお母さんが話しているのを、私は偶然聞いてしまった。
私は幼なじみだから兵助とは家族ぐるみで仲良くさせてもらってるけど、八とか三郎とか雷蔵とか勘ちゃんとかはあんまりよく思われていないということをそのとき初めて知った。


「兵助…本当にあの学校行くの?」

「…うん。だって母さんが望んでるから」

「本当にいいの?」

「しょうがないよ」

「…だったら私も同じとこ行くよ!」

「えっ、だってあそこ結構偏差値高いよ。大丈夫?」

「頑張るよ…だって、兵助のためだもん」


そう思ったから私はその日から勉強ばっかりしてた。今のままじゃ正直だめだったから、そりゃもう必死にやった。
「友達付き合い悪い」なんて言われちゃったけど、そんなのもお構いなしにだ。
だから、兵助はもちろん私も合格したのを見たときはうれし涙が止まらなかった。これでまた兵助と一緒にいられる。
そのときの兵助は…嬉しいような悲しいような、複雑な表情だったけど。

最初はよかったんだ。
兵助は高校でも学年トップの成績だったし、私もなんとか授業にはついていけてた。
部活にはお互い入らなかったけど、それなりに楽しい学校生活を送っていたはずだった。

それからしばらくして、兵助が突然学校に来なくなった。
私にも何も知らせてくれなくて、本当に突然のことだった。それを聞いた私は兵助に真っ先に連絡した。


『大丈夫?どうしたの?』


兵助から返信されたメールには、ただ一言。


『寂しい』


それを見た私は、学校なんて関係なく兵助に会うために飛び出した。


「へ、兵助っ……っ!?」

「悠歌…俺……」

「…大丈夫だよ、私がいるから……」


家に入ると私を迎えてくれたのは兵助と…階段の下で横たわっている兵助のお母さんだった。
情緒不安定になってしまった兵助を必死になだめながらなんとか話を聞いてみると、どうやら学校に行かないのをお母さんに責められ、気がついたら階段の下にいたそうだ。
…兵助が、お母さんを突き落とした。

そっか。兵助は…母親をずっと恨んでいたんだ。
私は静かに携帯を取り出した。コール音、そして救急車のサイレンがやけに頭に響く。



そこから兵助は、兵助じゃなくなったかのようにおかしくなっていった。
学校には相変わらず行かないし、私といて楽しそうにしていたのに急に泣き出したり。兵助のお母さんはあれからずっと意識不明状態。
一人になった兵助を気遣ってか八や三郎、雷蔵に勘ちゃんもお見舞いに来てくれたけど、兵助は顔を合わそうとしない。ずっと『寂しい』って言ってたのに、これじゃ本末転倒な気がする。


「ねぇ悠歌?」

「なぁに兵助」

「どうしたら悠歌は、ずっと俺と一緒にいてくれるの…?」

「ずっと一緒だよ。私には兵助しかいないもん」

「本当にずっと?」

「ずっとだよ」

「よかった。…俺にも悠歌しかいないから」


そう言って兵助は、今日も私だけを求め続ける。
それに応え続ける私も…もうおかしくなっていたんだ。



もう直らない壊れものの話
(二人だけの世界に、ずっといようね)


title by 確かに恋だった

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