不確かな何かが渦巻く

「伊賀崎孫兵くんっ」

「…??」

どうやら今日は厄日か何かなんだろうか。
朝学校に来てみると僕のロッカーや机の中には甘いお菓子や何やら出一杯になっていた。それだけじゃなく、休み時間にも女子からのたくさんの呼び出しをくらったし。
同級生たちは僕のことを羨ましそうな目で見ながら騒いでいたけど、僕にとってはどうでもいい。むしろ迷惑だ。
僕を呼び出す女子の香水の匂いに反応して、ジュンコが怯えちゃうじゃないか。


「い、伊賀崎くんっ」

「…何?僕、急いでるんだけど」

「えっと…伊賀崎くんに渡したいものがあって…」


早くしろよ、僕は早くジュンコたちの世話をしに小屋へ行きたいんだから。

今日で何度目なんだろうか、目の前の女子は持っていたバッグから小さな包みを僕に差し出す。僕はそれをどうでもいいような顔をしながらも一応受け取る。
目の前からの視線が少々痛かったので、渋々無駄に可愛く装飾されたタイを捻って中身を取り出す。
チョコレートなんて僕はいらない。甘いものは、どうも好きになれないんだから。

だから、目の前のファンシーな包みとはかけ離れたものが中から出てきたとき、僕は少なからず驚いた。


「これって…」

「え、餌だよ…蛇とかトカゲとかの。知り合いに詳しい人いたから教えてもらって…だって、伊賀崎くんこういうのもらった方がいいかなって思って…」

「…うん。すごく嬉しいよ、助かるし」

「あのね!!私、爬虫類とか昆虫とか人並みに苦手だけど…慣れるように努力するから!!一緒にいたら、多分段々好きになれると思うから!!」

「………」


何なんだ彼女は。そこまで僕のために必死になって…僕の、何がいいって言うんだ。

…あぁ、そうか。僕は初めて人間、しかも女子に対して『興味』という感情を抱いたのかもしれない。


「…君、名前は?」

「えっ…同じクラスなんだけど」

「僕、あんまり人の名前覚えられないんだ。名前は?」

「…悠歌」

「悠歌か…よろしく。君なら、僕を分かってくれそうだ」

「あ…う、うんっ」


そういってはにかむ悠歌の顔は、ジュンコに負けないくらい綺麗で可愛くて…なんだろう、こんな気持ち、僕は知らない。

訂正。バレンタインデーも、結構いいものかもしれない。



不確か何かが渦巻く
(この気持ちを知るのは、もう少し先になりそうだ)

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