ずぶ濡れの恋心
「…悠歌」
「何、留三郎。また私を笑いに来たの?」
「違ぇよ。っていうか、俺お前を笑ったことなんて一度もないからな」
同情もしない。俺が思うのは、どうしてまたという非難だけだ。
今日は大雨、晴れる見込みはないでしょうと朝の天気予報で言っていたのを思い出した。
それなのに幼なじみの悠歌は相変わらず傘を持ち歩いていないらしい。
頑張って伸ばしていても失恋する度に切ってしまうから、髪はいつも短め。その髪も雨のせいで濡れて少しだけ長く見えた。
「今回はどんな奴だったんだ?」
「野球部の部長。笑った顔がかっこよくて、爽やかで、好きになった」
「………」
「頑張ってアピールしたよ、差し入れあげたりして。でも…彼女いた。一緒に歩いてるの見たんだ」
相合い傘、してたんだ。
そう言う悠歌は辛そうだったが、俺に対しては無理に笑ってくる。
雨のせいで分からないが、多分、泣いているんだと思う。
こいつは惚れっぽくて、すぐに誰かを好きになる。
同級生、先輩、後輩…時には先生を好きになったことだってあった。それでも、誰かに恋をしているときのこいつの顔ははすごく幸せそうだった。
こいつが自分で決めたことで、幸せだと思っているなら、俺はそれで構わなかった。
でも、いつからだろう。こいつを意識し始めたのは。
こいつは馬鹿だ。だから何度も同じことを繰り返して、好きになっていつかは振られて。そんな破天荒な行動に目が離せなくなっていることに気づいたのは最近だった。
もう、いいだろ?誰かを好きになるのは。
お前を一番愛している人が、こんなにも側にいるってのに。
「お前、いっつも傘持ち歩いてないだろ。…ほら、入ってけ」
「嫌だ。雨に濡れて帰りたいときだってあるんだよ」
「馬鹿。風邪引くから大人しく傘入れよ」
「…留三郎、お母さんみたい」
「何とでも言えよ」
無理矢理にでも悠歌を引き寄せると、下から恨めしそうな視線が送られる。
そんなの、こいつが風邪を引いて苦しむのにくらべればよっぽどマシだ。
天気予報は大当たりのようで、足を進めるにしたがって雨音は激しくなっていく。台風の季節でもないのに困ったもんだ。
「…俺はずっと、お前とこういうことしたいと思ってたんだけどなぁ」
「ん?…ごめん、雨で聞こえなかった。何か言った?」
「何でもねぇよ」
俺がこぼした本音も雨音にかき消された。
聞こえなくてよかったのか、それとも聞こえた方がよかったのか。今の俺には、判断出来ない。
いつか俺に惚れてくれる時まで。俺はずっと、待ってるから。
ずぶ濡れの恋心(しばらく雨は止みそうにない)
title by 確かに恋だった
song by 天ノ弱(GUMI)
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