03

「お、そうだ…永嶋、お前学級委員長やらないか?」

「…は?」


次の授業のために理科室へ急いでいると、偶然すれ違った担任教師が「今日の夕食何?」的な軽さで言ってきた。
話を聞くぶんには、前委員長が転校してしまい今一年い組には委員長がいない状態らしい。

先生、言動が軽率過ぎますっ。
っていうか、なぜそんな大事な役職を編入生に任せようとするんですか!?


***


「(…結局断れなかった)」


編入してから結構日が経つというのに、私はまだコミュ障のスキルを発揮していた。
友達(と呼んでいいのか)は同学年の四人しかいないし、同居中の従兄もサッカー部に所属していて帰ってくるのが遅いので、比較的一人で過ごすことが多い放課後。

その時間を学級委員長としての会議やた何やらに使ってほしいとのことで。

そうは言っても、クラスの人たちとろくな会話すらしたことないんですよ。まとめる能力なんて皆無なんですけど。


そうこう一人で悶々と悩んでいる間に会議室に着いてしまった。重苦しい気を放っている。
やっぱり中では、この学園の未来に関わる重大な会議が行われているんだろうか。


「失礼し…ま、す」

「よっしゃーっ、また俺の勝ちだな」

「くっそ、何で勘右衛門には負けるかなぁ」

「鉢屋先輩は何となくですが顔に出るんですよ。もっと慎重に、ポーカーフェイスで」

「庄左ヱ門ってば、相変わらず冷静だなぁ」


扉を開けると、四人の男の子が真剣な表情で向き合って会議をしていた…ではなく、机を取り囲んでババ抜きをしていた。

一瞬本当にここが会議室なのか疑ってしまった。


「…お?君は」

「尾浜先輩、永嶋夕璃先輩です。確か今日から僕たち学級委員長委員会の一員になる」

「あ、そっかそっか。…へぇ」

「こいつか、八左ヱ門のいとこってヤツ」

「そうそう。化粧っ気はさっぱりないけどかなりの美人だなぁ」

「…手出すなよ勘右衛門、八左ヱ門に殺される」

「そういう鉢屋先輩だって、先輩を見る目がいやらしいですっ」

「いや彦四郎、別にナース服が似合いそうとか思ってないから。あと婦警さんとか…メイドも捨てがたいな」

「…竹谷先輩に言いつけますよ」

「それだけはやめてくれ庄左ヱ門っ」

「………」


正直もうここからついていけないんですけど。
ババ抜きで仰天しすぎた私に彼らが目の前で繰り広げる会話の内容を理解しろというのかっ。
無理があるだろう、無理が!


「ほら、先輩が困ってるじゃないですか」

「ちゃんとしてくださいね、鉢屋先輩、尾浜先輩」

「わかったよ…夕璃って言うんだっけ」

「は、はい!そうです…」

「私は高等部二年ろ組学級委員長の鉢屋三郎だ」

「鉢屋、先輩…ですか」

「名前で呼んでくれたら嬉しいんだが…まあいい。ところで」

「は、はいっ」

「夕璃は…メイド服とかに興味はあるか?」

「…は?」

「いや、私はそういう服を作ったり着たり着せたりするのが好きなんだが、夕璃は恰好の素材だと思うんだ。だから、是非私特製のフリルいっぱい夢いっぱいで絶対領域が最強のメイド服を着てくれないだろうか!?」


若干鼻息を荒くしながら近づいてきた鉢屋先輩を見て後ずさる。
でも後ろには私が入ってきた扉があってこれ以上後退できない、なんてこった!

襲われる!…と思った瞬間、スパァンといい音がしたかと思うと、先輩が右に傾いてそのまま小さな子に抱えられて退場した。

どうやら、この場は中等部と思われる少し背の小さな子に助けられたみたいだ。

後から鉢屋先輩は演劇部だと聞いて、こういうのも演技の一環なのかのと納得した。
…いや、やっぱり納得できないかも。


「ま、三郎は放っておいて…俺は高等部二年い組の学級委員長、尾浜勘右衛門。あだ名は『勘ちゃん』だから、気軽に呼んでいいよ」

「はぁ…じゃぁ、勘先輩で」

「うん!それでもよし!よろしくね、夕璃」

「よ、よろしく…ひぃっ!?」

「でさ、夕璃は八左ヱ門と同棲してるって聞いたけど、どんな感じ?八左ヱ門、手出してきた?」

「ど、同棲じゃなくて同居…っていうかただの居候なんですけど」


近い!恐ろしく顔が近いよ!!

勘先輩は従兄の話をするときだけ、おでことおでこがくっつきそうな勢いで顔を寄せてきた。

こ、これも勘先輩なりのスキンシップなのかな…慣れなくちゃな。


「あ、えっと…」

「すみません、こんな先輩方で」


勘先輩は私から離れてくれた。とりあえず一安心だ。

これからどうしたらいいのか迷っていると、私よりも少しだけ背の低い二人の少年が話しかけてきた。


「…あ、貴方方はどちら様ですか?」

「僕は黒木庄左ヱ門といいます。中等部の一年は組で学級委員長を務めています」

「僕は今福彦四郎、同じく中等部の一年い組の学級委員長です」

「ご、ご丁寧にどうもっ。高等部一年い組学級委員長の永嶋夕璃です」

「分からないことがあったら僕に聞いてください。手取り足取り、一から十そしてその先まで優しく教えてあげます」

「??…ありがとう」

「庄左ヱ門っ!!」


黒木君と今福君…今日は沢山の人と知り合うなぁ。
一度に四人もの名前を覚えなきゃいけないなんて。コミュ障こじらせた私にとっては難しい課題だ。

これから覚えられるのか、そして上手くやっていけるのか、かなり心配です。


委員長になりました。
(やっぱり不安がつきまといます)

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