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土井先生から一年は組の保護者役を押しつけられてから早十分。その十分間、私はずっと質問責めにされていた。
今まで会ったことがなかった団蔵君、伊助君、兵太夫君という子たちから名前、誕生日、趣味、スリーサイズ(流石に答えるわけにはいかない)などを聞かれてひと段落したと思えば、しんべヱ君が「お腹空いた!」と嘆いては庄左ヱ門君が持っていた焼きそば一パックを差し出し、それをぺろりと食べてしまった。

…なんだかんだ言って、一年は組って結構まとまりがあると思うんだけど。でも、これは見ていないと不安になる。


「たこやき食べたいなぁ」

「もう、しんべヱ食べ過ぎ!!」

「お祭りなんて、無駄遣いするためにあるみたいなもんだしな」

「…きりちゃんそれは言い過ぎ」


乱太郎君、きり丸君、しんべヱ君はこの喧噪に負けないくらい相変わらず賑やかだ。

たこやきかぁ。丁度目の前においしそうな匂いのする屋台がある。
あ、六個入りだ…一年は組は十一人で、私を足して十二人。ちょうど二パック買えば人数にぴったり!!


「す、すいません…たこやき、二パックください」

「はいよ、まいどあり!」


笑顔で対応してくれたお店の人。目の前でくるくる回って形になっていくたこやき…まるで魔法みたい。


「お待たせ、みんな」

「たこやきだぁっ!!」

「私のおごりです。ちょうど十二個あるので、みんなで一つずつ食べませんか?」

「いいんですか夕璃先輩?」

「うん、庄左ヱ門君。みんなで食べればおいしいと思うし…ね?」

「あ、ありがとうございますっ」


みんなわらわらと私の周りに寄ってきて、人数分の爪楊枝でたこやきをとって口に含む。私ももちろんそうした。
中はとろとろでたこも美味しくて…こうやってみんなで食べると普通のたこやきもなんだか格別な味に思えてきた。


「美味しいでーっす!」

「「「でーす!」」」

「ふふっ、よかったぁ」

「あ、あの!夕璃先輩!」

「何、金吾君?」

「夕璃先輩は、その…どうして僕たちに優しくしてくれるんですか?」

「えっ?」

「土井先生から押しつけられただけなのに、迷惑かけちゃってると思うんですけど…どうしてですか?」


首を傾げて私に聞いてきた金吾君。
確かに巻き込まれたのは偶然だし、半分押しつけられた形だったけど…それでもみんなと一緒にいて、今まで体験できなかったことができて…感謝こそすれ、迷惑なんて全然考えもしなかった。

えっと…なんて表現すればいいのかな…?


「私、一人っ子なんですよ」

「?は、はい」

「だから、たくさん弟ができたみたいで嬉しいです。勿論迷惑だなんて思っていませんし…一緒にいてくれてありがとう、みんな」


…これで、よかったのかな?

見ると金吾君は俯いていて、前髪から覗いた表情はどこか悲しげだった。え、回答間違えた!?

気にしなくても大丈夫です、と私に言った庄左ヱ門君。
金吾君の周りには団蔵君と虎若君がいて、なにやら慰めているようだった。


「弟だってよ」

「残念だったな、金吾」

「…うぅっ」

「大丈夫だよ、金吾」

「庄左ヱ門…」

「近親相姦という手もあるからね」

『!!??』


何を話していたかなんて、私の近くにいた喜三太君としんべヱ君の話し声でかき消された。





「永嶋ーっ」

「土井先生」

「遅くなってすまない。やっと見回りが終わったから、もう戻っていいぞ」

「はい。見回り、お疲れ様です。…このあとみんなはどうするんですか?」

「お前ら全員帰れっ…と言いたいところだが、こいつらも花火見たいだろうし、終わったら私が責任を持って帰宅させるよ」

『わーいっ』

「よかったですね」


一年は組のみんなの笑顔を見ていると、こっちまでつられて笑ってしまう。
いつもは学園を困らせているらしい彼らだけど、こういう一面もあるんだなぁってことを知れたから、今日はすごくいい体験をしたんじゃないのかな?

ぞろぞろと十一人プラス土井先生で河原へ向かうのを見ていた。
私も早くみんながいる場所に戻らなくちゃ、花火始まっちゃう…『もうすぐ行きますね』というメールを送ったあと、そこにはなぜか兵太夫君だけが私を見上げるようにして立っていた。切りそろえられた前髪から覗く目が、私を見ている。


「夕璃先輩っ」

「?何ですか兵太夫君…っ!?」


いきなりシュっという音がして、体が少し冷たくなった。
閉じてしまった目を開けてみると、そこには霧吹きみたいなものを後ろ手に隠していたらしい兵太夫君がいて、ニヤリと笑みを浮かべていた。
どうやら私は霧状のなにかを彼にかけられたらしい。


「な、何したの…!?」

「そんな怖がるほどのものじゃないです」

「(いきなり何かかけられたら誰だって怖がるよ!)」

「今日はありがとうございました。それは僕たちからのお礼と、ちょっとしたおまじないみたいなものです」

「おまじない…?」

「大丈夫、一時間くらいで消えるタイプのやつですから」

「??」

「じゃ、僕たちはこれで!綾部先輩にもよろしく言っておいてください」

「えっ?ちょっと兵太夫君!?」


そう言って駆けだした兵太夫君。
えっ…私は何も把握できてないんですけど?おまじないって何ですか?ちょっと怖いんですけど!?

そういえば彼は作法委員だって言ってたな…なんだろう、先輩と後輩って似てくるものなのかな?



お姉さんの気分です。
(これはこれで、悪くないですけどね)


***


アフタートーク
列に戻った兵太夫。声をかける団蔵、虎若。


「何かけたのさ?」

「んー、香水」

「香水?なんで?」

「っていうか何の香り」

「僕と三治郎で特別に調合した…土の香り」

「「完っ全に綾部先輩用じゃん!!」」

「結構苦労したんだよね。どうしたら自然な感じになるかとかさ」

「あ、だからこの前生物委員会の菜園で土採集してたのか…」

「その才能、もっと他のことに使えばいいのにな」

「エロい薬とか?」

「黙れ変態ども」

「「ひでぇww」」

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