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目の前には人、人、そして人。私の隣には見知った人はいない。
永嶋夕璃、完全に迷子です。

ど、どうしてだろう…さっきまで三木ヱ門君と一緒に焼き鳥を買いに露店を回っていたのに、少し目を離しただけであっと言う間に三木ヱ門君との距離は開き、そのままどっちに行ったのか分からなくなってしまった。
慣れない下駄はどうしても歩くスピードが遅くなってしまうから、全部私が悪いんだよね…そうだ、メールしてみよう!
前回私が迷子になったとき(11,12話参照)、みんなでアドレスを交換したんだった。

道の端で一人ぽつんと携帯の画面を見ていた私の耳に、聞き覚えのある声が入ってきた。


「ん?そこにいるのは永嶋か?」

「ど、土井先生っ…?」

「あ!夕璃先輩だ!」

「夕璃先輩っ、お久しぶりです!」

「夕璃先輩!」

「夕璃先輩!」

「せんぱーいっ」

「ひ、一人ずつお願いします…っ」


夏休み中だというのにスーツ(上は半袖Yシャツ)姿の土井先生と中等部一年は組のみんなが、賑やかな声を発しながら縁日をねり歩いていた。言っちゃあなんだけど…保父さんみたいだった。


「土井先生はどうしてここに?」

「見回りだよ。中学生は七時までだからね」

「…後ろのみんなは?」

「七時を過ぎても保護者と一緒にいなかった補導組だよ…全員私のクラスの生徒だけどね」

「(わ、笑えない…)」


そっか、中学生は出歩いていいのは七時までで、それ以降は保護者同伴じゃなきゃ駄目なんだっけ。
再び携帯のディスプレイに目をやると『19:18』の文字。花火、八時からだもんなぁ…。


「永嶋…今、少しだけ時間いいか?」

「はい、何でしょう?」

「こいつらを見張っててくれないか?」

「…お守りですか」

「まあ、そうなるな…」


正直道に迷っていてそれどころじゃないんですけど…などと言う暇もなく「わーい」とか「よっしゃあ!」とか言う声が一年は組のみんなからあがった。

土井先生、絶対戻ってきてくださいね!それと…私、花火までにみんなと合流できるんでしょうか?



***



※三木ヱ門視点


どうしよう…私のせいだ……。

あの後一緒に焼き鳥を買いに行ったはいいものを、花火の時間も近づいてきているので人手は増える一方で。
不安になって後ろを振り返ってみると、悪い予感は的中し、ついてきているはずの夕璃のその可憐な姿はどこにも見あたらなかった。
来た道を引き返してみるが、この人混みのなかで見つけるなんてことは出来っこなさそうだ。

仕方がなく元いた場所で滝夜叉丸と喜八郎、タカ丸さんに報告した。


「何してるのさ?夕璃が一人で心配だから三木ヱ門に任せたのに…まさか迷子になるなんて」

「喜八郎の言うとおりだ!まったく、三木ヱ門、反省してるんだろうな!?」

「し、してるに決まってるだろ…っ。…うぅっ……」

「な、泣くな三木ヱ門!気持ち悪いっ」

「気持ち悪いとは何だ!?私は、夕璃が心配で…必死で…っ」

「みんな言い争わないでよっ。大丈夫、メアド交換してるんだし、そのうち絶対に会えるから!」


タカ丸さんが必死になって押さえてくれたが…今回は完全に私のせいだ。
ああもう、どうしてこうなってしまうんだ?せっかく夕璃にいいところを見せられたのに…こんなのって…っ。

私たちは一言も喋らず、ただ段々と騒がしくなっていく縁日を見てるだけだった。
不意に、聞きなれた着信音…私の携帯が、メールがきたことを知らせてくれた。慌てて画面を確認してみると…夕璃からだ!!


『三木ヱ門くん、ごめんなさい。
 私の足が遅いせいではぐれてしまって、迷惑をかけてしまいました。

 今は中等部一年は組のみんなと一緒にいます。
 土井先生からちょっと用事を頼まれたんで、申し訳ないんですがみんなで先に行っててもらえませんか?
 私も、すぐに追いつきます。

 場所は……』


いや、全然夕璃のせいじゃないから!私のせいだから!
…っていうか、一年は組?土井先生?いったい夕璃は何に巻き込まれたのだろうか。
画面をスクロールさせていくと、下の方には『追伸』の文字があった。


『追伸、
 ぬいぐるみ、持たせたままですみません。
 プレゼントしてくれてありがとうございました。

 射的をやってるときの三木ヱ門君、とても格好よかったですよ(^▽^)』


夕璃の絵文字の可愛さに死にそうになった。



ちょっと待ってます。
(早く戻りたいのにな…)

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