28

七月も下旬に入った。夏の日差しも強く、アイスとかプールとかが恋しくなるこの季節、学生が待ちに待った期間が始まる。


「明日から夏休みだーっ」

「おー」

「うっせえぞ左門!!三之助も乗るなっ」

「(…ここ、高等部一年生の教室なんだけどなぁ)」


高等部と中等部は同じ敷地内にあっても棟が違うので結構距離があるはずなのに、終業式が終わった一年い組の教室には中等部三年生の六人(+ジュンコちゃん)が集結していた。
ちなみに、この教室には私と六人(以下略)以外誰もいない。滝夜叉丸君も綾部君も部活に行ってしまったから、ちょっと寂しい。


「…えっと、それで結局みんなはどうしてここに来たんですか?」

「本題を忘れるところだったな」

「夕璃先輩は夏休みの予定とかってありますか?」

「あぁ!ずるいぞ数馬、僕が先に聞きたかった!」

「予定ですか?今のところ特には入ってないですけど…」


聞いてきた数馬君の質問に答えると、待ってましたと言わんばかりの表情で六人が一斉に喋りだした。しかもみんな早口で。私はそんな聖徳太子的なスキルは持ち合わせてない。


「ひ、一人ずつ喋ってくれますか!?」

「はい、じゃあ僕から。夕璃先輩、夏祭り、僕と一緒に行きませんか?」

「え、夏祭り?」

「はいっ…あ、間違えましたジュンコも一緒にです」

「うわぁっ」


孫兵君の首に巻き付いていたジュンコちゃんが、私のほうへ頭を向けた。シャーと口を開くのは威嚇してるからじゃないよね!?
…兄さんの影響もあってか虫とかにはだいぶ慣れたと思うんだけど、だけどヘビは別だよっ、しかも毒あるし。


「大丈夫です。ジュンコは絶対夕璃先輩のことは咬みませんっ」

「(し、信用できないっ)…えっと、ちょっと考えさせてください」

「え、夕璃先輩お祭り行かないんですか!?」

「たぶん行くと思うんですけど、まだ誰と行くとかは決めてないんで」


そうやんわりと断ってみると「いい返事を期待してます」と満面の笑みで言われた。
孫兵君は本当に美形だから、そんな顔されると嫌とは言えなくなってしまう。本当、自分って現金だな。

ふと孫兵君の隣に目をやると、藤内君が今何かを思い出したようで一気に顔を青くしていた。


「藤内君?どうしたの?」

「いや、僕は作法委員会の地獄の合宿が…うっぷ」

「だ、大丈夫!?」

「大丈夫です…そこで夕璃先輩にお聞きしたいんですが、どうしたら立花先輩を怒らせないで済みますか?予習もしたんですけど、なんか不安で…」

「?…藤内君はよく仙蔵先輩に怒られるの?」

「そういうわけじゃないんですけど…おい作兵衛っ」

「あ、あぁ…立花先輩、キレたら怖いって噂で、もし合宿で兵太夫たちがなんかやらかして綾部先輩も穴掘ってばっかで立花先輩がキレて合宿がめちゃくちゃになったりしたら…!」

「作兵衛、考えすぎ」


思考が暴走し始めた作兵衛君を数馬君がたしなめる。
三年生のみんなにとってはいつものことらしいので普通に受け流しているが、私はちょっと驚いていた。作兵衛君…さすがに考えすぎだよ。


「よ、よくわからないけど仙蔵先輩はそんな怖いとは思わないよ。喜八郎君もなんだかんだてちゃんとやってくれるし、何かあったってきちんと謝れば許してくれると思うし…思い悩む必要なんてないよ?」

「そ、そうですか…なんか夕璃先輩の言葉には説得力があります!頑張ってみます!」


目をきらきら輝かせて私にお礼を言った。お役に立てたのならいいんだけど…。

その間、藤内君の話にはあまり興味がなかったみたいな残りの四人。数馬君、左門君、作兵衛君、三之助君が私の隣で話し合っていた。
みんな早口で自分の意見を主張し合っていたのだが、かろうじて聞こえた内容は、こうだ。


「僕たちは先輩とどこ行こう?」

「海!海行きたい!」

「左門、お前泳げねえだろ!行ってどうすんだよ」

「んー、でも先輩の水着見たいよな」

『!!!』

「部活の合間縫って計画してみようかな」

「あと、キャンプとかはどうだ?きっと楽しいぞ!」

「却下だーっ!!」

「え、何で?」

「察しろよお前らっ100%迷子になるぞ!」


えっと…私とどこかに行くことはみんなの中では確定なのかな?



夏休み、始まります。
(休む暇なんてなさそうです)

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