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今の、私の望み。

昨日までとは違った私になりたかったんだ。



***



※竹谷視点


「おはよ、兄さん」

「んっ、夕璃……って!?」


幸せな夢を見ていた俺を現実に引き戻す声が聞こえた。
寝ぼけた俺を包むふわっとした香り。これは、夕璃の…って夕璃!?


「お、お前が俺より早く起きるなんて…!」

「あぁ…今日からコンタクトレンズにしてみたんです。だからその分早く起きました」

「…コンタクト?」

「はい…どうですか?」


動揺していて気づかなかったのだが、確かに今夕璃は眼鏡をかけていない。
目の周りのフレームがないだけで夕璃のぱっちりとした瞳が際立って…


「…すげぇ似合う」

「ありがとうございます。朝ご飯できてますよ、一緒に食べましょう」

「あ、あぁ」


そう言って部屋から出ていく。
もちろん、学校にもコンタクトで行くんだろう。そして、その姿を見せるんだろう。俺だけではなく、他のクラスメイトたちにも。

なんだろうなぁ、この虚しさ…俺だけ持っていたものがほかの奴らも持ちはじめて、みたいな気持ち。
まあ、しょうがないと納得するしかないんだ。夕璃は夕璃なんだから。
さらば、俺だけの特権。



***



家を出て、いつものように学校に向かった。眼鏡がないだけでいつもより視界が広い感じがする。
別に眼鏡が嫌になったわけではないんだけど…ちょっとした気分転換である。


「おはようございます…滝夜叉丸君、喜八郎君」


コンタクトのために早起きをしたが、その後の支度などに時間がかかっていつもより遅く教室についてしまった。
一年い組の教室には、もう二人の姿が見えた。私が声をかけてみると、二人の間でちょっとしたどよめきが広がった気がした。


「…ど、どうしたんですか!?」

「夕璃、いつもの眼鏡は…」

「それに、僕たちのこと名前で呼んでくれたし」

「き、今日からコンタクトにしてみたんです。それに名前は…タカ丸君がこの前呼んでもいいと言ったので……迷惑でしたか?」

「迷惑なんてとんでもないっ、これからは私のことを『滝夜叉丸』と呼んでくれるのか…!」

「コンタクトもすっごく似合ってるよ。やっぱり夕璃はかわいいねー」

「こら喜八郎!調子に乗って抱きつくなーっ!!」


喜八郎君のふわふわしている髪が私の首にかかって、それを引きはがそうと滝夜叉丸君が頑張っている。
よかった。やっぱり眼鏡がなくたって、名前で呼んだって二人はいつも通りだ。
思わず笑ってしまう私の後ろで扉の開く音がした。入ってきたのは隣のクラスの彼。


「ん?何だ夕璃、もう登校していたのか。おはよう」

「おはようございます、三木ヱ門君」

「…ん!?」


眼鏡がないからか、それとも名前を呼んだことに対してだろうか、三木ヱ門君は一瞬固まったがそれからすぐに私に詰め寄ってきた。
なぜか顔が少し赤くて…さっきの二人と同じ反応だ。


「夕璃、何で眼鏡が…っていうか今、私の名前を…」

「そ、そんなに驚くことなんですか?」

「「「驚くに決まってるっ」」」

「そうですか…どうです?」

「「「すごく似合ってる!!!」」」

「あ、ありがとう…あ、タカ丸君っ」

「おはよう、夕璃ちゃん」

「おはようございます」


彼の綺麗な金色の髪が揺れたのが見えたので声をかけると、斉藤…ううん、タカ丸くんがこっちを向いて微笑んでくれた。
私がちょっと一歩踏み出せたのも、彼のお陰だ。本当にありがとう。

初めてのコンタクト越しに見る彼らは、より一層輝いているように見えました。



似合いますか?
(新生永嶋夕璃、始めます)

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