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「…私、遊園地なんて久しぶりに来ました」

「僕もしばらく来てなかったからねぇ。新しいアトラクションとか増えてるらしいよ」

「へぇ…すごく楽しみです」


電車を降りて、遊園地へ向かう。入場券を買おうとした時、斉藤君がポケットから何か紙を二枚出して受付の人に手渡した。
どうやら招待券があるということで、だったら先に言ってくれればいいのにとかも思ったけど…更に申し訳なさが増した気がする。

ともあれ、ちゃんと入場できた。
早速最初に乗るアトラクションを二人で歩きながら決めていた時、突然視界が横にぶれた。
やっぱりヒールのせいかな…と思っていたがよく足下を見てみると、地面がない。え、何で!?


「へ?…きゃっ!?」

「危ないっ」


とっさのことで対応しきれなくて、落ちる!と思ったが勢いよく右腕が引かれ、気がついたら斉藤君の腕の中だった。
ち、近すぎるって!っていうか、何で落とし穴がここにあるの!?思い浮かんだのはいつも飄々としている同級生の顔だけど、彼がここにいるはずないし…じゃあどうしてなんだろうか。


「あ、ありがとうございます…助かりました」

「ううん、大丈夫。僕でよければいつでも手を貸すからね」

「…はい」

「じゃあ、行こっか」


どきどきするのは、きっとまださっき転びそうになった時の恐怖が残ってるからなんだ。



***



※竹谷視点


「タカ丸の野郎…夕璃に必要以上に近づきやがって」

「竹谷先輩、全部声に出てますって…まぁ、私もそう思っていますが」

「だってしょうがないだろ滝夜叉丸!?俺の可愛い夕璃が!あんなチャラい野郎なんかと!!」

「竹谷先輩って意外とシスコンだったんだ…」

「兄妹ではないんだけどねぇ」


高校生八人が遊園地で遊んでいるわけでもなく、ただ物陰に隠れながら移動しているのは相当奇妙な光景だと思う。しかし自分では、俺はいたって冷静だと思っている。
でも、誰だってこういうのは気になるし、誰かが近寄ってくるのを見るのは嫌だろ!?あと俺と夕璃は兄妹ではない、いとこだ。ここ重要。


「タカ丸さん…夕璃と二人きりで出かけるなんて、許せないな」

「うわぁ。タカ丸さん、委員会の先輩怒らせちゃった」

「後が怖いねー」


いつも豆腐のことしか頭にないような兵助までついてくると聞いたときは驚いた。どうやら兵助も夕璃に色々と気があるらしい。…すっげー複雑。

三郎と勘右衛門の学級委員長コンビの監視によると、夕璃たち二人はまだ何のアトラクションに乗るか決めかねているらしい。
それをよそに喜八郎や三木ヱ門は二人を引き離すためのトラップを作り続けている。だが、タカ丸はいつもの抜けているのが嘘のように次々と回避していく。くっそ、こんな時にカリスマ発動しやがって。


「あれぇ?おっかしーなー。落とし穴はいくつも仕掛けたんだけどなぁ…」

「それ、多分恋愛フラグになっちゃってるから。逆効果だから」

「一般人も巻き込んでるしね」


通常運転な綾部に三郎と雷蔵が冷静に突っ込む。確かに、夕璃が転びそうになったところをタカ丸が支えていた。くそっ近ぇぞ!!
そして度々後ろで悲鳴のようなものが…き、聞かなかったことにしよう。うん。



***



色々二人で園内を散策し、一周はしただろうかという頃。
私は次は絶叫系がいいかなぁなんて考えていると、不意に斉藤君の足は『ホラーハウス』と書かれた看板の前で止まった。
…そ、そういう絶叫系を望んでいたわけではないんだけどなぁ。


「…は、入るんですか?ここ」


正直怖いものは苦手な私。兄さんが借りてきたホラー系のDVDを一緒に見て、その夜どうしても眠れなかったということが先日あったばかりなのに。
その後どうしようもなくて、結局兄さんになだめてもらってから寝たことは恥ずかしすぎて忘れてしまいたい。

だから、男の人はみんな怖いものを見たがるのかと思っていたので、返ってきた斉藤君の答えを聞いた私は少し驚いた。


「んー?入らないよ」

「え?だって男の人はそういうのが好きだって…」

「確かに嫌いじゃないけど、でも…」


少しの沈黙。その間も斉藤君はずっと私の目を見ていてくれた。


「夕璃ちゃんが悲しんでいる顔は見たくないから」


いつもと変わらない笑顔を私に向けてくれた彼。
別に、斉藤君に怖いのが苦手って言ったわけではないのに、何で彼は私のこと…。


「さー次は何に乗ろうか?絶叫マシンとかいいかもしれないね」

「そ、そうですね…って斉藤君っ」

「僕はね、君を楽しませたいんだ。だから夕璃ちゃんが選んで…ね?」


どうして私の考えていることが分かるんですかとか、私だけが選ぶわけにはいきませんとか。聞きたいことはたくさんあったけど、どの言葉も私の喉でつっかえて出てこなかった。


「…はい」


最終的に口から出たのは、彼の質問に対する肯定の言葉だけだった。
私的には正直今でも納得いってないけれど、斉藤君は相変わらず微笑みかけてくれていたから、それでいいかもなんて思っている今日の私はなんかおかしいんだ。



よく分かりません。
(彼が何を考えているのか)

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