17

長かったテスト週間。それが終わったとなると、この私立の大川学園の生徒でも浮かれる人がたくさんいる。終わってすぐにカラオケにいったり、カフェに行ったり。

…でも、まだテストの呪縛から逃れられない人もいるようです。



***



「…あれ?」


学級委員長としての仕事で図書委員会に日誌を返しに行かなければいけないのだけれども、放課後いざ図書室に行ってみると入り口のドアに『本日貸し切り』の札がかけられてあるのを発見した。貸し切りって…お店じゃないんだから。

ともあれ、私はここに入るのを躊躇っていた。
でも仕事なんだし、中在家先輩は中で私を待っているはずだから…うん、入ろう。勇気出せ、私。


「あの、失礼しま…」

「ん?…おぉ!夕璃じゃないか!!」

「ひっ!?な、七松先輩!?」


私に抱きつかんばかりに突進してきた七松先輩。
これは避けきれないと腹をくくった時、恐る恐る確認してみれば、中在家先輩が七松先輩の首根っこ掴んで立っていた。随分扱い慣れているなぁ…助かった。


「…待っていた」

「は、はい!日誌をお返ししに…」

「……まぁ、中に入ってくれ」


先輩に促されて入った図書室内をよく見れば、この二人の先輩の他にも立花先輩、潮江先輩、善法寺先輩、食満先輩までもがこの図書室に集合していた。
…ひょっとして、高等部三年生委員長勢揃い!?


「どうして、三年生の皆さんがここに…」

「中間テストは終わったんだが、小平太と伊作が赤点とって追試でな」

「だから勉強するために、図書室を長次権限で貸し切りにしてもらったんだ」

「…もそ」

「(七松先輩は何となく分かるけど…)善法寺先輩も追試なんですね」

「僕は数学と英語なんだけど、実は…」

「伊作は解答欄間違えたんだよな」

「そうなんだ。最後確認する時間がなくて、答案見たら書く場所一個ずつずれちゃってて」

「(不運だ…)」


久しぶりに善法寺先輩に会ったけど、不運なのは相変わらずみたいだ。
あれ以来(四話参照)保健室には行ってないからなぁ…でも、まだ先輩たちに対して苦手意識は持っているんですからねっ。

どうやら七松先輩には中在家先輩と潮江先輩が、善法寺先輩には食満先輩と立花先輩が監督としてついているみたいだ。それぞれ別の机の上で彼らに勉強を教えている。
私は中在家先輩に拉致され、仕様がなくといった感じでノートに向き合っていた七松先輩に近寄る。


「七松先輩は…って何ですか、これ!?」

「ん?いけいけどんどんのグラフだ」

「ち、直線にはならないかと…」


どうやら七松先輩も数学をやっているみたいだ。
でも反比例のグラフは曲線になるってことは、一年生の私でも分かる。
見ると最早中在家先輩も潮江先輩も半分諦めかけている状態だ…。

次は善法寺先輩が勉強している机を見てみる。
こちらは問題ないようで黙々と数式を書き綴っていた。
どうやら本当に解答欄を間違えただけなようだ。


「(私には分からない問題ばっかりだな…)」

「…ところで夕璃」

「?…はい、どうしました食満先輩?」

「俺のことは、何と呼べと言ったか。覚えているか?」

「……お兄ちゃん、ですか」

「よろしい。っていうか竹谷め…夕璃に毎日『お兄ちゃん』と呼ばれているなんて!!羨ましすぎるじゃないか!?」

「いや、そんな風には呼んでないんですけど…」

「何?留三郎はそんな面白いことを夕璃に頼んでいたのか。…ならば夕璃、私のことは『ご主人様』と呼ぶように」

「…だんだんハードル上がってる気がするんですけど」

「ちょっと静かにしてよ!せっかく勉強真面目にやってるのに…」


私を挟んで言い争いを始めてしまった食満先輩と立花先輩。
ただその争いの内容は本当にどうでもいいことなんだけど…。

あ、そうだ…日誌返さなきゃ!!
私としたことがここに来た目的を果たさずに帰るところだった。


「中在家先輩っ」

「…何だ?」

「図書委員会の日誌、お返しします」

「…そうだったな。すまない」

「はい、どうぞ…また一週間後に回収しに来るんで、その時までに活動をまとめておいてください」

「……分かった」

「ずるいぞ長次!私も夕璃に日誌返してもらいたかった!」

「おいこら小平太、集中しろよ」

「とか言って文次郎も思ってるんだろっ」

「わ、私が来るとは限らないんですからねっ」


貸し切りだから良かったものの、とても図書室とは思えないくらいうるさくなってしまった先輩たち。
図書委員長の中在家先輩の視線が痛いよ…。っていうか追試の勉強してたはずなのに、なぜかさっきより騒がしくなっているような…いや、気のせいじゃない。絶対。



真面目にやってください。
(追試は何とか合格できたそうです)

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