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久しぶりの完全オフの放課後。
たまには一人でのんびりと有意義な放課後を過ごそうかと思案を巡らせていると、前の方から人影が。


「…本当に、お前らといると私の胃痛が酷くなるよ」

「じゃあ、俺たちに頼まなければいいんすよ」

「きり丸、それでも土井先生は私たちに頼んでるんだよ」

「ボクたち信頼されてるんだねー」

「それは私が担任だから…ってうわぁっ!」

「もーっ何やってるんですか土井せんせー。何もないところで転びそうになるなんて」

「前を歩いてるきり丸が急に止まるからだっ」

「どしたのきり丸?小銭でも落ちてたの?」

「…あそこにいるのは……」


じーっと、四人の視線がこちらに集中してる…って私!?
よく見れば、生徒三人は好奇心で、先生にいたっては縋るような感じだ。

…せ、生徒に振り回されて困ってる先生を放っておけない。だって、学級委員長だもの。



***



「すまないな。君まで私の仕事を手伝わせてしまって」

「いえ、気にしないでください」

「でも土井先生、いいんですか?」

「女の子に仕事を押しつけるなんて」

「だから彼女できないんすよ」

「お前らなあっ!」


結局土井先生の荷物運びと資料整理を手伝うことになってしまった私。
私の横を歩いている土井先生は理化学の担当だけど、中等部の担任だし私とはあまり接点がなかった。なのに、何で先生は私のことを知っている風だったんだろうか?

それに、私たちの後ろをついてきている三人。
三人は土井先生が担任をしている一年は組の生徒らしく、図書委員の摂津君は知っているけど、保健室へ行った時善法寺先輩に報告してた子とちょっとふくよかな子とは初対面だ。


「久しぶりっす、夕璃先輩」

「お久しぶりです摂津君。…あの、何で土井先生は私のことを知っていたんですか?」

「あ、あぁ、それはなあ…」

「俺が先輩のことをしょっちゅう話すんです。可愛い先輩がいるって」

「こらっきり丸!それとお前ら、永嶋に自己紹介しなさい」

「はーい。中等部一年は組の猪名寺乱太郎と」

「摂津のきり丸と」

「福富しんべヱでーっす」

「高等部一年い組の永嶋夕璃です…よろしくお願いします」


しょっちゅう話すって…どういう風に伝わっているのだろうか。悪いイメージを持たれてないかどきどきする。

でも、何だかんだ言ってるけどこんなに生徒から好かれてるなんて。
土井先生、素敵な先生なんだな。


優しい土井先生とにぎやか三人組と一緒に来たのは化学準備室。初めてはいる部屋だ。
先生は自分のものと思われる机に持ってきたファイル類を置き、私の持っていたプリントの束も受け取ってくれた。


「手伝ってくれてありがとう、永嶋。君のお陰ですごく助かったよ」

「大丈夫です。あの、まだ何か手伝えることありますか?」

「そうか…じゃあ、このプリントを学年別にまとめてくれないか?」

「はい、分かりました」

「せんせーい、私たちは?」

「お前らがやると余計ぐちゃぐちゃになるから駄目だ!帰って宿題をやりなさい」

「…土井先生、私たちが帰ったら先輩と二人っきりだね」

「きっと二人で俺たちに言えないようなことするつもりなんだぜ」

「じゃあボクたちが…」

「…みんな、どうしたんですか?」

「「「僕たち、土井先生を監視してまーっす」」」

「何でそうなるんだ!?」


五人が入るにはちょっと狭いこの準備室から立ち去らない三人に、土井先生は顔を赤くして突っ込む。
みんな同時に手を挙げて先生に報告する三人はとっても仲がいいらしい。っていうか監視って…何を?

まあそれよりも私は手を動かそう。
よく見ればプリントは結構な量があり、整理するには結構時間がかかりそう。しかも、中等部と高等部のとが混ざっていたりしてるみたい(後でそれは一年は組の授業の時、生徒にばらばらにされたのだと知った)。

仕分けていると私の目の前にあった扉からコンコンと控えめなノックの音が響いた。
その音に土井先生が答える。


「はい、どうぞ」

「失礼します。土井先生は…っと」

「あれ、利吉君?」

「「「利吉さんっ?」」」

「…え?」


入ってきたのはモデルでもやってるんじゃないかってくらい顔が整っていて、スタイルがいい今風の男性だった。
でも生徒じゃないみたいだし、誰なんだろう…どうやらみんなこの人のことを知っているみたいだけど。


「利吉君、山田先生なら今日から出張だよ。帰ってくるのは二日後だそうだ」

「そうですか…おや、初めて見るお嬢さんだ」

「ああ、彼女には私の手伝いをしてもらっていて…」

「そっか…随分可愛い子だね」

「あ、あの…高等部一年の永嶋夕璃です。初めまして」

「私はこの学園の教頭、山田伝蔵の息子の山田利吉だ。よろしくね、可愛いお嬢さん」


そっか、山田教頭先生の息子さんだったのか。

で、でも可愛いって…。こっちが照れるようなことをそんなに言わないでほしい。
しかも利吉さんは初めて会った人なんだし。それに、さっきから三人の視線がちょっと痛い。


「そ、それで何のご用で…」

「父に用があったんだけど、いないみたいだからね。…プリント整理してるんだ。私も手伝うよ。いいですか、土井先生?」

「…ああ、助かるよ」

「夕璃も、いいよね?」

「は、はい。よろしくお願いします」


そう言って私の横に来ると手際よく作業を開始していた。

何でか分からないし失礼だけど…利吉さん、ちょっと私の苦手なタイプかもしれない。


「…これで、全部ですね。土井先生、整理終わりました」

「ありがとう。こんなに早く終わらせてくれるなんて、君のお陰だ」

「途中から私も手伝いましたよ」

「「「僕たちもちゃんと監視してました」」」

「…ありがとう利吉君。それから三人は早く帰れっ」

「よ、喜んでもらって、私も嬉しいです。…あの、私にできることがあったらいつでも言ってください」

「!!あ、あぁ…」


学級委員長としてではなくても土井先生の仕事なら手伝いたいと思った。
それはあの化学準備室がすごく心地よい空間だったからなのか。理由までは分からないけど、私は三人に見送られながらそこを後にした。

自由な時間はなくなっちゃったたけど、今日は結構有意義な時間、過ごせたんじゃないかな。




「あれー?土井先生、どうしたんですか」

「顔が若干赤いですよ。熱ですか?」

「しんべヱ、乱太郎、そっとしておいてやれよ。土井先生は27にもなって童貞こじらせてるんだから」

「きり丸っ!余計なことは言わんでよろしい!」

「土井先生にも、ようやく春が来たってことですね」

「利吉君までっ!」

「さて、私はそろそろ仕事の時間なんで…お邪魔しました」


お手伝いします。
(喜んでさせていただきます)

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