09

昨日はなんとか立花先輩の下僕にならずに日誌を受け取ることができた。会計委員会の方も、田村君の協力もあって無事に回収できた。
今日は二日目、残るは体育委員会と用具委員会。

…また何か一波乱ありそうな気がする。



***



「夕璃!今日は体育委員会の日誌の回収に行くそうじゃないか。だったら、やっと私の出番だな」

「…どうしてですか?」

「なぜならこの私、平滝夜叉丸は委員会の花形である体育委員会所属であるからだ」


そう得意気に言った平君。そっか、平君は体育委員会所属だったんだ。
前回の綾部君に引き続き、彼の厚意に甘えることにする。


「お願いします。私、体育委員会委員長って知らなくて…正直不安だったんです」

「そ、そうか!夕璃の役に立てるとは…この平滝夜叉丸、感激だ」


感極まった様子で立ち上がった平君。

とその時、どこからかピロリンと着信音が鳴った。
どうやた音の発信源は目の前の彼のようで、平君はズボンのポケットから携帯を取り出した。
画面を見るなり青ざめる平君。


「な、七松先輩からだ…」

「…どうしたんですか?」

「いや、今日はグラウンドでいけどんマラソンが…」

「??」

「いや…夕璃、日誌なんだが、なんだったら私が受け取ってくるが……」


さっきまでの気合いはどこへいったのか、平君は酷く疲弊した感じだった。
いったいさっきのメールに何が書いてあったんだろう…。


「…いえ。出来るだけ自分の力で仕事するって決めたんです」

「そうか…じゃ、行こうか」

「?は、はい…」


そう言った彼はすごく複雑な顔をしていた。
何でだろう…何か私、悪いことでも言ったのかな?



「な、七松先輩…僕、もう限界で…」

「何を言う金吾、限界なんてないぞ!今日、その限界を突破するんだ!いけいけどんどーんっ!!」

「…はぁ」

「ん?何だ滝夜叉丸じゃないか!遅いぞ!」

「す、すみません先輩…今日は金吾だけなのか」

「は、はい…時友先輩は補習授業で、次屋先輩は迷子らしいです。あれ?滝夜叉丸先輩の後ろにいるのは…」

「は、はい。高等部一年い組の学級委員長の永嶋夕璃で…」

「学級委員長か!知ってるぞ、日誌を取りに来たんだろ!」


グラウンドでマラソン中の体育委員会委員長、七松先輩に平君は声をかけた。
そこにもう一人いた中等部の子は、ゼェゼェと息を荒くしながら私の前に座り込んだ。
大丈夫なんだろうか…。

七松先輩は笑顔で日誌を渡してくれるのかと思いきや、なぜか値踏みするような視線を向ける。その黒い瞳が大きく見開かれて私を見る。

なんだろう…何か昨日もこんなことがあった気がする。


「…あ、あの日誌を」

「お前、うまそうだな」

「へっ……っつっ!!??」


ちくり。

そんな言葉では到底表現できないほどの痛みが首元に走った。
思わず痛みの方向へと視線を下げると、七松先輩が私の首から離れていく。
手入れされていないであろう髪がちくちく当たってくすぐったい。


「七松先輩!?何やってるんですかっ!?」

「ん?マーキングした」

「普通に言うなーっ!!」


あっけらかんとしている七松先輩に怒る平君。
その二人を人事のように眺めていたら首元がまた痛みだしたので、皆本君から手渡された鏡で傷口を見てみた。
痛みの元は鬱血して紫色になっていた。ぐ、ぐろい…。


「金吾っ!見てないでお前も手伝え!」

「は、はいっ!」

「夕璃!早く次のところへ行ってくれ!!用具委員長の食満先輩は用具倉庫にいるはずだから」

「う、うん…ありがとう平君!」

「離せっ金吾!滝夜叉丸!」

「「離しませんっ」」


平君、皆本君、ごめんなさいっ。

二人が必死に先輩を止めてるのを横目に私は用具倉庫に向かって走り出した。
制服の襟を引っ張ってできるだけ痕が隠れるように。



***



「はにゃ?お姉さん、どこに行くんですか?」


用具委員長は用具倉庫にいると言われても、肝心の用具倉庫の場所が分からなかった私は完全に迷子になっていた。
以前にも来た裏山あたりをさまよっていると、ほんわかとした雰囲気だけど、やたらと服が派手な子が私に声をかけてきた。


「えっと…用具委員に用事があるんで、用具倉庫に行きたかったんですけど」

「じゃあ僕と一緒に行きましょう?ボクは、用具委員の山村喜三太でーす」

「そ、そうだったんですか。一年い組学級委員長の永嶋夕璃です」

「あれぇ?同級生かな」

「…高等部の学級委員長です」


どうやらこの子、かなりの天然らしい。

…あれ?彼、ここでうろうろしてるってことは…


「…ひょっとして、山村君もここがどこだか分かってませんか?」

「いやぁ、ひなたぼっこしてたらちょっと道が分かんなくなっちゃったかなぁって…でも大丈夫っ。帰り道は、ボクのナメさんたちが教えてくれるんです」

「な、ナメクジですかっ…!!」

「わぁっ…ナメさんたち、先輩のことが好きになっちゃったみたいですねぇ」

「(う、嬉しくない…)」


何かが私の足を這い上がってくる感触。何かなんて…考えたくない!
っていうか、この前のジュンコちゃんといい…私は生き物に好かれるスキルでも持ってるんだろうか。

足の感触を無視してしばらく進めば、開けた場所についた。太陽の光が少し眩しい。
どうやらここが用具倉庫らしい。


「はぁい!ここでーす」

「ん?…何だ喜三太じゃないか。今日は一人で、どうした?」

「一人じゃないですっ。なんか、先輩に用事らしいですよぅ」

「お!そうか…ところで喜三太、彼女にナメクジを引っ付かせて困らせるんじゃない」

「はぁい、食満委員長」

「あ、あの…」

「うちの後輩が、困らせて悪かったな。俺は用具委員長の高等部三年は組、食満留三郎だ」

「いえ…高等部一年い組、学級委員長の永嶋夕璃です。日誌を回収に来ました」

「あぁ、そうだったのか」


そう言ってニカっと笑った食満先輩。
さっきの山村君からの反応といい、食満先輩は後輩にとても好かれているようだ。
これは無事に日誌を受け取れそうだ。


「日誌は確か倉庫の棚に…あったあった、ほれ」

「ありがとうございますっ」

「それでだ。日誌を渡してもいいんだが…」

「??…何か条件でも?」

「あぁ…その、できれば…俺を……」


倉庫の中から日誌を見つけてきたが、私に渡すのを渋りだした先輩。
すると、今までの委員長と同じように条件をつけてきたではないか。

どうしよう、また無理難題を押しつけられたら…いや、まさか食満先輩に限ってそんなこと…。


「お兄ちゃんと、呼んでくれないだろうか」

「………」


前言撤回。食満先輩に対するイメージが変わった。
お、お兄ちゃんって…先輩はそんなに年下が好きなんだろうか。

ど、どうしよう…先輩はできればと言ってるから言わなくてもいいんだろうけど…でも、できないことでもないし…もう!どうしたらいいんだろうっ!?


「…お、お兄ちゃんっ日誌ください」

「おう!いいぞっ!」


精神的にくるものがあったがこれも仕事のためと割り切って、食満先輩のことをお兄ちゃんと呼べば満面の笑みを浮かべていた。
快く日誌を受け取ってそそくさと退場し、その日の内に回収した日誌を鉢屋先輩に提出した。

翌日、七松先輩につけられた首元の痣や、なぜか聞かれていた食満先輩へのお兄ちゃん発言についてみんなから質問責めにされたのは別の話。



まともな人、いませんか?
(この学校には皆無みたいです)

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