08

今まで会議(というなのお喋り)ばかりしていた学級委員長委員会にも、ちゃんとした仕事があるということを知った。
その一つが『各委員会の活動日誌の回収』だ。
二週間に一度くらいのペースで回収しているらしく、今日、明日はその回収日。

鉢屋先輩から私に割り当てられたのは『作法委員会』『会計委員会』『体育委員会』『用具委員会』の四つ。
この四つの委員会の日誌を二日間で回収しなくちゃならない。
各委員長は高等部三年生らしく、私とはそんなに交友もないし…。不安でしょうがなかった。


「じゃあ、僕と一緒に行く?僕、作法委員会だからさー」


放課後、早速各委員会のところへ行こうとしていた私に綾部君が提案してくれた。


「…いいんですか?」

「ぜーんぜん大丈夫」

「…お願いします」


前途多難だった私にも希望の光が見えてきた気がする。
私は綾部君と一緒に作法委員会の部屋へと向かった。



***



綾部君の厚意によって連れてきてもらった作法委員会の部屋。
がちゃりと扉を開くとゴミ一つなく整然としている部屋が目に入った。

が、いたるところに変な人形がたくさん置いてあるのが気になる。
何に使うんだろう…。


「立花せんぱーい、学級委員長委員会が日誌回収に来ましたよ」


部屋の机の上で真剣な顔をしながら書類に目を通していた先輩に綾部君が声をかけた。
その人は私たちに気づくと席を離れ、こちらに歩み寄る。


「ああ喜八郎か…ん?初めて見る顔だな?」

「高等部一年い組の学級委員長の永嶋夕璃です」

「そうか。私は高等部三年い組で作法委員長の立花仙蔵だ」

「初めまして。あの、日誌を回収しに来ました」

「ああ」


自己紹介してくれた立花先輩は、すごく髪が綺麗な人だった。
先輩が動くと彼のつやつやした髪が揺らめく。
あまりにも絵になる人だったので見とれていると、私の視線に気づいたのか分からないが、こちらを凝視してきた。


「………」

「??あの…に、日誌を……」

「ああ、そうだったな…ほら」

「あ、ありがとうございます…えっ?」


先輩は机の上にあった黒い冊子を掴むと私の方へ手渡してきた。
それを受け取ろうと手を伸ばすと、何を思ったか先輩は日誌ごと手を上げた。
日誌は私の頭上にあって、いくら背伸びをしても届きそうにない。


「あの…届かないんですけど」

「そうだろう。お前の身長ではな」

「…日誌、受け取りたいんですけど」

「どうしても、か?」

「は、はいっ」

「だったら夕璃、お前は私の下僕になるんだ」

「………はい??」

「日誌が欲しければ、お前は大人しく私の言うことに従え」


立花先輩の言葉の意味が理解できなくて、思わず綾部君の方を見る。


「綾部君…どういうこと?」

「どうやら立花先輩、夕璃に対してどSスイッチ入っちゃったみたいだね」

「スイッチって…」


そんなもの、私がいつ押したっていうんだっ!?
っていうか作法委員会は意地悪な人の集まりか何かなんだろうか。
綾部君もトラップばっかり作ってるし。

悩んでいる私がよほど面白いのか、立花先輩は微笑みながらこちらを見ている。
先輩が手を下げてくれる気配はまるでないし、でも下僕なんて…ど、どうしたら…!


「失礼します。生徒会の会計委員会です」

「仙蔵!この予算申請書類なんだが…」


扉を開け、悩んでいる私の目に入ってきたのは、よく知った隣のクラスのアイドルと目の下の隈が印象的な人。


「た、田村…君?」

「夕璃!?」

「な、何をやっとるんだ仙蔵っ!?こんな可憐な後輩を虐げるなどと…恥を知れ恥をっ!!」

「うるさいぞ文次郎」

「そうか…今日の日誌の回収係、夕璃だったのか!」

「僕もいるよー」

「…あの」


現状が飲み込めなくなってきた。
田村君と一緒に来た先輩は立花先輩と言い争いを始めてしまったし、田村君は先輩たちをなだめるのに必死だし、綾部君は綾部君で今にも穴掘りに行きそうだし。

わ、私はただ日誌が欲しいだけなんです!


「…そういえば、夕璃は潮江先輩を知らないよな」

「そ、そうだったな。俺は高等部三年い組、生徒会所属会計委員長の潮江文次郎だ」

「高等部一年い組、学級委員長の永嶋夕璃です。あの…顔が少し赤いような気がするのですが、大丈夫でしょうか?」

「こ、これはだな…」

「文次郎は免疫がないからな。夕璃を見て、照れているのだ」

「仙蔵ーっ!」

「おや、怖い怖い」


まだ顔が赤い潮江先輩と立花先輩はまた言い争いを始めてしまった。
田村君は二人に振り回されているようで、気がついたら綾部君はいなくなってたし…。

結局日誌を回収できたのはそれから一時間後のことだった。
まだあと二つの委員会、回らなきゃいけないのになぁ。


やっぱりこうなるんですね。
(大川学園、自由過ぎます)

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