06

「…失礼します」


今日は委員会活動は休みだったが、帰ってもすることがないし教室にいても同級生が騒がしいしで、結局学級委員長の仕事をしに会議室に来てしまった。
なんだかんだ言って私はここが気に入ってるのだ。

誰もいないかと思いきや、勘先輩も私と似たような理由で来ていたので、お互いにクラスでの出来事とか仕事とか他愛もないことを話していると、会議室の扉が静かに開いた。
必然的に私たちの目がそっちに向けられる。
入ってきた人は男性とは思えないほどつやつやした黒髪で、まつげが長くて…とにかく、女の私でも見とれるくらい綺麗な人だった。


「ん?兵助じゃん…どうした?何かあったのか?」

「勘右衛門、実は…」


どうやらその人は勘先輩の知り合いらしく、扉を閉めて勘先輩の方に歩み寄るとなにやらこそこそ話し始めた。
ここからだと、うまく聞き取れない。

そんなに長い時間でもなかったが話し合いが終わったらしい。
かと思うと、なぜか二人とも私の方を指さす。


「か、彼女が…?」

「うん、高等部一年い組の夕璃だよ」

「やっぱりそうか…あ、あの!」

「?…はい」

「と、豆腐は好きですかっ!?」

「…ヘルシーで健康にいいので、好きですよ」

「よっしゃーっ!!」

「(…何で!?)」


『豆腐が好き』と答えると目の前の先輩は心から嬉しそうに叫びガッツポーズをした。
先ほどまでとのギャップに驚く。
私はわけが分からなくてもう一度その先輩の方を見ると、彼はその綺麗な目を輝かせながら私をガン見していた。

どうやらまた変な先輩が来てしまったらしい。


***


「俺は高等部二年い組、久々知兵助だ」

「兵助は俺と同じクラスなんだ」

「はぁ…」


先ほどの絶叫のあと、彼は私に自己紹介してくれた(順序が違う気もするが)。
前から思ってたのだがこの学園の生徒はキャラが濃すぎるよ!!
私と同じ学年のアイドル四人はその代表だと思うし。


「高等部一年い組学級委員長の永嶋夕璃です」

「うん。知ってるよ」

「俺がしょっちゅう夕璃のこと話してるからね」

「そ、そうだったんですか…」


だから先輩は私のこと知っていたのか。
それにしても勘先輩、私のことをどういう風に言っているのだろうか…。


「あの…今日はどういったご用件で?」

「俺、豆腐が好きで…豆腐を使った料理を作るのが趣味で…だから!夕璃に食べてほしかったんだ!」

「わ、私にですか?」


豆腐料理作りが趣味…何で豆腐なのかとか色々疑問はあったが、そこは一応スルーして彼は、持っていたスクールバッグから綺麗にラッピングされたピンク色の袋を取り出して私に差し出した。
中に入っているのはこんがりキツネ色に焼けた丸いもの。これは…


「クッキー…ですか?」

「ただのクッキーじゃない。おからを使って作ったヘルシーで美容にもいいクッキーなのだ」

「へぇ…」


『ヘルシー』とか『美容』とか、女の子の好きそうな言葉で先輩は私を誘ってきた。
私は手の中のそれを疑いもなくぱくっと口に放り込む。
口の中でさくっという音がした。


「お、おいしいですっ」

「ははっ…良かった、夕璃に喜んでもらえて」

「あの、兵助…俺の分は?」

「勘右衛門の分なんてない」

「ひどっ!!」


勘先輩は露骨にがっかりしている。
久々知先輩と勘先輩の上下関係が見えた気がした。

でもこれ、本当においしい。ぱさぱさしてなくてほんのり甘い。
おからの風味も残ってるし…何枚でも食べられそうで、私は袋の中から二枚目を取り出した。


「ごちそうさまでした。あの、本当においしかったです」

「そうか、良かった。あの…また作って持ってきてもいいか?俺、夕璃のために作りたいんだ」

「久々知先輩…」

「夕璃…」

「ちょっと、兵助ばっかずるいよ…俺も混ぜてくれるよね?」


別に見つめあっていたわけではないけれど、久々知先輩は私に近づき、さりげなく私の腰に手を回してきた。
いきなり近くなった先輩の顔に驚いていると、今までずっと傍観していた勘先輩も私に近づき、いつものように顔を寄せる。
っていうか勘先輩!目が笑ってないですよっ!

こ、これはさすがに…と思った瞬間。


「夕璃ちゃん、一緒にかえろ……」

「…さ、斉藤君?」


ドアを開けたのは斉藤君だった。
彼は一瞬だけ目をぱちくりさせたあと、いつもののんびりした動きとはかけ離れた、まるで忍者みたいな動きで私と二人をを引き剥がした。


「へーすけくん!僕の夕璃ちゃんに何してるのっ!?」

「僕のって…彼女はタカ丸さんのものじゃないでしょう?」

「へーすけくんのものでもないよっ」

「(それ以前に私は『もの』じゃないんだけど…)」


かたや黒髪かたや金髪、美人さん二人が私を挟んで言い合っている…普通だったらときめいたりする場面なのだろうが、いかんせん状況が状況なだけに素直にときめけない。
この学園に来てからそういうのばかりな気がする。
私が望んでいたのはこんなのじゃないよっ。


「まぁまぁ、兵助も、今日のところは帰ったら?」

「…ごめん、勘右衛門。…夕璃!」

「は、はいっ」

「また来るから」


それから久々知先輩は、ことあるごとに私に豆腐料理を差し入れてくれるようになりました。



豆腐は好きです。
(好きですけど…何かが違う気がします)

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