05

「ねぇねぇ夕璃ちゃん、僕のハサミ知らない?何か朝から見あたらないんだあ」

「…すみません。見てないです」

「見てくれ夕璃。私は今日も美しいだろう?今日は髪がばっちり決まって、そしてテストもいつも通り百点!」

「何を言う滝夜叉丸!私だって今日のテストは百点だったっ」

「穴掘り行ってこよーっと」


私がこの学校に編入して、分かったことがある。

放課後でもこの教室が静かになることはない!

休み時間はともかく、放課後でも隣のクラスの田村君と斉藤君がやってきて平君と綾部君と、四人でわいわいやっている。
そして、なぜかそれらは私の周りで行われている。

正直、教室じゃ勉強に集中できない。
ただでさえ編入してきて範囲が違って勉強が遅れているので、一生懸命やらなきゃいけない時なのに。


「じゃ、図書室行くか」


四人から解放され会議室に行き、今日の(というかいつもの)教室での出来事を会議中に愚痴ると、鉢屋先輩が提案してくれた。

…その手があったか。


***


大川学園の図書室は中等部と高等部が共同で使用できる場所らしい。
だからその規模も前の学校のそれとは比べものにならなかった。
びっしり並べられた棚には歴史などの資料から現代小説まで、幅広いジャンルの本が揃っていた。


「よっ、雷蔵」

「三郎…また冷やかしに来たの?」

「違う違う。今日は真面目に勉強しにきたんだよ…こいつとな」

「?君は…」

「こ、高等部一年い組の永嶋夕璃です…初めまして」

「初めまして。僕は図書委員会副委員長の高等部二年ろ組、不破雷蔵。よろしくね」

「は、鉢屋先輩と同じ顔だ…」

「あぁ、三郎と僕はいとこなんだ」

「親戚で顔が似るってすごいよな」

「双子みたいですっ」


貸し出しスペースには鉢屋先輩と驚くほどそっくりな不破先輩という人が座っていた。
すごい…いとこってだけでこんなに似るものなのかな。
私と兄さんはまったく似ていないというのに。

すると私たちの声を聞いてか、カウンターの奥からいかにも寡黙そうな男の人と一見すると女の子にも見えそうな端正な顔の少年がひょっこり顔を出した。


「雷蔵先輩、初めての人っすか?」

「うん、三郎がつれてきたんだ」

「初めまして!俺は中等部一年は組の摂津のきり丸っす。んで、こっちが高等部三年ろ組で図書委員長の中在家長次先輩」

「…もそ」

「高等部一年い組の永嶋夕璃です…あの、今日は図書室で勉強させていただきます」

「どうぞどうぞ。じゃ、俺は奥で中在家先輩と作業してますんで、何かあったら呼んでください」

「了解。頼んだよ、きり丸」


図書委員会も中等部と高等部が共同でやっているらしい。
きり丸と呼ばれた少年は律儀にも私に一礼し、また奥の方へと戻っていった。
…いい子だ。


それから近くの長机に座って持ってきた問題集を広げ勉強を開始した。
ちなみに私の右隣が鉢屋先輩で、左隣が不破先輩。
ちょっと見られてて恥ずかしいけど、黙々と問題集を進めていく。
途中で鉢屋先輩が忘れていた公式を教えてくれたりもした。

…っていうか鉢屋先輩の教え方……


「…分かりやすいです」

「三郎はね、こう見えても成績は学年で一、二を争うくらいにいいんだよ」

「鉢屋先輩って…頭よかったんですね」

「おいおい!雷蔵まで…失敬な」

「す、すみません!」


まさかあの鉢屋先輩が頭がいいとは(失礼だが)。
運動もできて手先も器用で、本当に何でもできる人っているんだ…。


「じゃ、僕はカウンターに戻るね」

「私はまだ室内にいるから、分からないところがあったら呼んでくれ」

「はい、わざわざありがとうございました」


そう言って顔がそっくりな二人は、それぞれ私からは見えない位置に行ってしまった。
私なんかのために時間を割いてくれて、本当に感謝しなければいけない。

私はそのまま勉強を再開する。
分からなかったさっき教えてもらった公式を当てはめてみると簡単に解ける。

しかし私は勉強の方ばかりに意識が向いていて、周囲には向けられていなかった。
ページをめくろうと腕を動かすと肘に何かがぶつかった。
そして、私のペンケースの中身が派手な音を立てて散らばった。
静かな空間にカシャンという派手な音が響き渡る。

あぁ、やってしまった!!
私があたふたして落ちてしまったシャーペン類を拾い上げていると、音を聞きつけた不破先輩が私の元へ駆け寄ってきてくれた。


「!!す、すみませんっ、迷惑をかけてしまって…!」

「大丈夫。今は僕たちしかいなかったし、気にしないで」


そう言って先輩は屈むと、床に落ちている私の定規を拾ってくれた。
渡すときはもう落とさないようにということだろうか、私の手の中で包み込むようにして渡してくれる。
その時にお互いの手と手が触れる。
不破先輩の手、温かいなぁ。


「誰にでも失敗はあるから…今度から気をつければいいよ。ね?」

「は、はい!」


すべて拾い終わって二人で立ち上がると、先輩が私の頭を撫でた。
最初は先輩なりの気遣いだと思ってじっとしていたが、髪を梳いたりしてきて…さすがに気恥ずかしくなってきた。


「ふ、不破先輩!子供じゃないんで…!」

「あ、ごめんね」

「あのー…もしかして、私のこと忘れてないか?」

「す、すみません鉢屋先輩…」

「ごめんね三郎」

「夕璃はいいとして、雷蔵に至っては悪いとは欠片も思ってないよな」


じろりと鉢屋先輩が私たち(多分不破先輩のみ)の方を睨む。
わ、忘れてたわけじゃないんだけどな…でも、怒られたというのに不破先輩は相変わらずの笑顔だった。
私のことを気遣ってくれたのだろうか。


***


「あの…ありがとうございました。おかげで勉強はかどりました」

「ううん、気にしないで。またいつでも来てよ」

「何かあったら、また私に言ってくれ。お礼はナース服着てくれるだけでいいから」

「そ、それは遠慮しておきますっ」


そろそろ閉館の時間ということなので荷物をまとめて帰る支度をする。
鉢屋先輩は不破先輩と一緒に帰るということなのでまだ残っているらしい。
中在家先輩と摂津君も見送りに出てきてくれた。

私はみんなに一礼し、図書室から出ていった。
いい場所を見つけた…また使わせてもらおう。



「……ところで雷蔵、もしかして…」

「ふふっ、僕も気に入っちゃった。夕璃のこと」

「マジか…またライバル増えた。やっぱり連れてくるんじゃなかったなぁ」

「…もそもそ」

「一生懸命で可愛い先輩でしたもんね。中在家先輩も気に入ったみたいっす」

「…今度から、あいつを図書室に連れてくるのは考えなければならないな」



勉強させてください。
(ゆっくりできる場所、見つけました)

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