04

相変わらず友達が少ない永嶋夕璃です。

学級委員長という役職についてからというもの、鉢屋先輩はよく分からない服を着せようとしてくるし勘先輩は事ある事に顔を寄せてくるし、まともだと思ってた黒木君は言葉の節々から黒さを感じるようになってきたし…でもそのお陰なのか、段々とコミュニケーションもとれるようになってきた。


「………っひぃあぁっっ!!??」


そんな感じで少しだけ浮かれていた私は足下を注意深く見るなんてしなくて、気づいた時にはもう遅かった。


「………何、これ」

「だーいせーこー」

「喜八郎ーっ!!」


未だに自分の現状が分からなくて、声が聞こえたので頭上を見ると綾部君が私に向けてダブルピースをしていて、それに気づいた通りすがりの平君の絶叫がこだました。


***


同じクラスの綾部君は穴掘りという変わった趣味をお持ちのようで、授業は真面目に受けてないし放課後は委員会の仕事をサボって穴ばっかり掘ってる問題児らしい。
そういえば授業中いっつも寝てるね。そしていつも私のノート見に来るよね。


「…失礼します」

「いらっしゃい、保健室へようこそ」

「(何かお店みたいなノリだなぁ)」

「君は…見たことない子だね。編入生かな?」

「はい。先日編入してきました、高等部一年い組の永嶋夕璃です」

「僕は高等部三年は組の善法寺伊作。よろしくね」

「はい」


保健室の白いドアを開けると、そこには明るい茶髪の優しそうなお兄さんが白衣を着て座っていた。
最初は先生かな?と思ったがどうやらこの学校では先生の時間がない時は保健委員長が養護教諭としての役割も果たしているらしい。


「今日は怪我?それとも体調悪い?」

「捻挫したみたいで…お恥ずかしながら、穴に落ちてしまって」

「喜八郎のトラップかあ。あれ、僕もよく引っかかるんだよね」

「(ここにも被害者がっ)」


よく見ると先輩の顔や手の甲には、軽いが結構な数の擦り傷や切り傷が見つかった。

やっぱり綾部君には厳重注意をしないといけないらしい。
これ以上被害者を増やさないためにも。


「他にもよく転んだり、通学路が工事中で遅刻したり、学食が目の前で売り切れたり」

「…不運なんですね」

「そうなんだ…だから『保健委員長』じゃなくて『不運委員長』って呼ばれてて」


善法寺先輩…苦労してるんだな。
本人は笑ってるけど、全然気にしていないというわけでもないらしい。


「さてと、お喋りしすぎちゃったけど早速治療するから…向かいのイスに座って」

「はい」

「うーん…症状は軽いみたいだ。軽く固定して湿布貼っておくね」


さすが保健委員長、手際がいい。
赤い十字のマークがついた箱から湿布と包帯を取り出し、丁寧に私の足首に巻いていく。

安心して先輩に身を委ねていると、怪我をしている足首から段々と上に手を這わせてきた。


「あの…善法寺先輩?」

「ん?なあに?」

「そこは、その…怪我していないんですけど」

「捻挫を甘く見ちゃダメだよ。もしかしたこっちも怪我してるかもしれないからね…もしものため、だよ」

「……ぁっ…!」

「ダメだよ、声だしちゃ…これは『治療』だからね」


いや、だからって…これは明らかに目的違うと思うんですけど。

そうこうしているうちに先輩の手は私の太ももあたりにまでたどり着いた。
ちょっと、かつてないほどの身の危険を感じるんですけど!?


「だ、ダメです…善法寺先輩っ」

「でも嫌がってないよね…ねえ、この先も『治療』していいよね?」


疑問系なのに有無を言わせないって感じの声で私に問いかける。
実際こっちは答えられる状況でもないし…って、私ものすごく嫌がってるんですけど!?
ちゃんと嫌って言ってるのに…あれ、私ってこんなに雰囲気に流されやすかったっけ!?

テンパっておかしくなったた私の思考も、次の衝撃でかき消された。


「伊作先輩大変ですっ、野球部が何か色々あったようで大惨事で!!」

「みんな血みどろでホラー映画みたい…すごいスリルぅ」

「いや、伏木蔵の表現は言い過ぎなんですが…でも怪我人が出てるそうです」


いきなり扉がバンっと音を立てて開いたと思うと、中等部の子と思われる少年二人が保健室にずかずかと入ってきた。
そして、扉が開いた瞬間に先輩は私の太ももから手を離し、イスを引いて適切な距離をとった…忍者みたいな動きだ。

その後も少年二人が先輩に一生懸命現場の状態を伝えていた(若干二人の話が噛み合ってなかった気もするが)。
話を聞くぶんには、どうやら中等部の保健委員の子たちらしい。


「あ!先客がいたんですね。治療の邪魔しちゃいましたか」

「伊作先輩がいるのに保健室に来るなんて…勇者ですね」

「こらこら…ねえ夕璃、また何かあったら遠慮なく来てね。ちゃんと『治療』してあげるから」

「………」


そう言って善法寺先輩は、さっきの妖しい微笑みなんて欠片も感じさせない爽やかスマイルで保健室から退場した。

…とりあえずだ。これから保健室に行くのは極力控えることにしよう。



怪我をしました。
(保健室恐怖症になりそうです)

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