恋心に芽生える
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中間試験前、松田は午前中部活だが萩原はうちに来て試験勉強をしている。時計を見ると十五時を指していた。
「そろそろ松田来るかな」
「かもねー……頭使ったらなんか甘いもの食べたくなって来た。」
ワークの課題なんて基本答え見てやるけれども今回は物は試しにやってみたら案外頭使う。
「俺的には苗字ちゃんハグしてくれたらもっと頑張れるんだけどなあー」
「んー、全教科100点取ったら考えてあげる。」
「え、頑張る」
苗字のハグと口ずさみながら萩原は勉強に戻った。私のハグそんなにいいのかな。
何気なく萩原を意識していると、上品な匂いが漂ってくる。くんくん、と鼻を萩原に近づけると匂いの元はここから来てることがわかった。
「え、どうしたの苗字ちゃん?」
「萩原からいい匂いするなーって……」
甘いような、シトラスの匂いのような。
「実は香水買って見たんだよねーこの時期汗臭くなっちゃうからさ……って苗字ちゃんそんなに近くに来られちゃうとお兄さん興奮しちゃうよ?」
「ごめんごめん! っと、下から声聞こえるから松田来たっぽいっうわっ」
「シュークリーム持って来たぞーうおっ」
つい萩原に見惚れていたところ松田が来てくれたお陰で逃げるようにドアを開けようとしたらドアの目の前に松田がいてよろけた私を抱き止めてくれた。どうしたんだ今日の私やけに女の子だぞ。
「あとシャワー借りるぞ」
「うん……」
渡されたシュークリームには保冷剤が入っていた。これならしばらくは大丈夫だろうと勉強に戻ろうとすると萩原がにっこりとこちらを見ている。
「な、なに……」
「今日の苗字ちゃん女の子だなーって……」
「こういうのってそんな急に来るものなのかな……」
生まれて初めて胸がキュッと締め付けられて、なんだか切なくて、でもその切ないのがちょっと気持ちいいような感覚を覚えた。
「つまり、ようやく俺や松田を一人の男として見てくれるようになったんだ。ふふっ、香水に感謝かな。ってことはこれから苗字ちゃんにぐいぐい押し倒しちゃってもいいわけだ……」
「ひゃっ」
油断していた私をすかさず押し倒しに来た萩原。なんていうか、急に色っぽくなったぞこの人。
「覚悟しててね」
耳元で囁かれぞくり、と私の体は震えた。
その後はやたら萩原がベタベタ絡んで来るし松田は松田で距離近いしドキドキしているのバレないようにするので大変だったしこれから私の心臓は持つのだろうか。結局私は二人のこと面倒くさいが好きだし、どちらがいいかなんて決められないと思う。
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