短編 | ナノ



初めからそのつもり、
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『今日のライブもよかったーっと』

今日はア○マスのライブで、残念ながら現地はもぎ取れず映画館から応援した。実際映画館の方が物販とか考えなければ半額だし、席もゆったりしているから見やすい。本当は友達と行くはずだったが運悪く仕事が抜け出せないらしく二人席分ゆったりとしながらぼっちで行って今に至る。この時間は同じような人達がいるからどことなく安心だ。

「もしかして名前か?」

『へ?』

と振り返れば仕事終わりであろう松田さんの姿が。彼は警察庁の機動隊で爆発物処理班に所属している。私も同じ警察庁の交通課に所属しているのだが早めに上がらせて貰ったのだ。

「ここのところ張り切っていたのと顔がにやけていたのはそれか」

『うぅ……皆さんお仕事の中申し訳ないとは思ったんですがこれが生きがいなんです……日々のストレスを癒してくれるのはこの子だけなんですっ……』

それか、と指さされたのはア○マスの推しの痛バッグ。私が重度のアニヲタを知っているのは交通課の子たちぐらいだ。まさか松田さんにも知られるとは。そもそも普段挨拶してすれ違うぐらいなのにこうやって街で声掛けてくれるとは思わなかった。

「まあなんでもいいや。お前飯これからなのか?」

『明日も申し訳ないんですが休み取ってあるし今そこまでお腹減ってないから抜こうかなと迷っているところです』

「ほー。じゃあちょっと付き合え」

『へ、あのっ……』

断る間も無く私は松田さんに手を引かれる。そう言えば松田さんの手にはスーパーの袋がぶら下がっており、恋愛漫画でよくある、どこかお洒落なバーやレストランはないなと判断した。

「着いたぞ」

駅から二十分ほどだろうか。着いたのは一軒のアパート。の、ドアの前。

『ここはー……』

「もちろん俺の住んでるアパート。お前、料理上手いんだってな」

佐藤さんから聞いた、と鍵を開け、私に入るよう促す。ここまで来てしまったら帰るのも悪いと私は腹をくくり入る。

『私の手作りなんかでいいんですか?』

「じゃなきゃあそこで見かけても声かけてウチまで連れてこねえよ」

ネクタイを外し、上着をハンガーにかける。
さずかに家の中だとサングラスも外すらしく綺麗な顔が露わになる。私は改めてやっぱりこの人はカッコいいと思った。エプロンはもちろんないため洋服を汚さないようにと手っ取り早くオムライスを作った。フライパンやフライ返しは綺麗だったから普段自炊はそんなにしない人なのだろう。そんなこと考えながら完成したオムライスにケチャップを掛ける。

『げっ……』

気づけば二つともケチャップでハートを描いていた。私が普段家族に作る時ハートを描くからその癖だと思う。さすがにぐちゃぐちゃにするのも悪いのでこのまま出すことにした。私が作っている間松田さんは着替えを済ませたらしく部屋着になっていて仕事の資料を見ていた。

「お、出来たか?」

『と、とりあえずは……サラダも作ったんで食べましょう』

松田さんはテーブルの上の物を退かし、台拭きで拭いてくれた。私は料理をテーブルに並べる。

「うまそう。ハートなんて随分可愛いことしてくれるじゃねえか」

『あ、あはは、家で作る時いつもハートで……萌え萌えキュンとかしちゃいます?』

「……今ので十分だ」

『……ハイ。あ、お酒注ぎますよ』

「おう」

なんというか、すごく恋人っぽい会話だ。誰だって家に呼ばれれば少しぐらい期待してしまう。注いだビールを喉を鳴らしながら飲み、口周りに付いたビールの泡を舌でペロリと舐めとる。なんというか、意識すればするほど色っぽくみえる。そしてようやく私の作ったオムライスを口に運ぶ。

「うまっ……」

一口食べれば松田さんの目はキラキラと輝いて食べるペースが速くなる。美味しそうに食べてるとやっぱり作った甲斐があって、何より食べている時の顔が子供っぽく見えて私の頬は緩くなる。

「お、やっと緊張解けてけ来たか?」

『解けて来たかは分かりませんが、そりゃあ仮にも上司の家に連れて行かれたら誰だって緊張しますよ』

「上司、か……」

食べていたスプーンが止まる。穏やかだった松田さんの顔はにやり、と明らかに企んでいる顔で私を見る。

「俺はアンタを一人の女としてみているんだけどなぁ?」

『なっ……』

そろりと近づきたじろいでいる私を抱きしめ耳元で彼はささやく。

「言っとくが今日は帰す気ないからな?」

好きだ、名前と、ゆっくり私を押し倒し、それからの記憶は曖昧で、嫌ではないけど恥ずかしくて思い出したくはなかった。




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