求めてばかりの醜い感情
凛とした細い背中を見つめていると、胸の奥がざわつくことが多くなった。


「──…名前」


名前呼べば振り返る彼女は、口元を緩ませて「キヨ」と愛称でオレを呼ぶ。近頃、毎日一回は彼女に名前を呼ばれないと不安になって、ドロドロと醜い感情が自分を充たしていくようになった。醜く黒い、彼女を求める感情。


「オレ、名前がいなくなったらもう駄目だわ」

「なにそれ、大袈裟すぎるよ」

「大袈裟なんかじゃねぇ。マジで駄目、死にそうなほど駄目」


正面から抱き着けば「今日は甘えただね」と綺麗に笑う。自分の胸元より下にある小さな身体を、壊さないように優しく包むようにすれば、ふんわりと彼女の愛用している香水の、甘くキツすぎない匂いが漂ってきて。また胸の奥がざわついた。


「キヨ?どうしたの?」

「……んー……」

「何だか今日は猫みたい」


クスクス笑う彼女に擦り寄るようにすれば、ほんのりと顔を赤らめて。更に彼女が欲しくなる。


「………っ、キヨ…?」


甘い声を出す唇よりも、不意に視線に入ったのは彼女の白い喉元。

喉へのキスは欲求の証なんだと誰かが言っていた気がした。もしかしたら本に書いてあったかもしれない。そんな事を思い出しながら、視線をそのまま彼女の喉元に向けておく。
もし、オレが彼女を欲したら彼女はすぐに頷いてくれるだろうか。どうせなら頷いて欲しい。否定しないで欲しい。そう考える自分自身を嘲笑いながらふと思った。嗚呼、本当に彼女が欲しい。


「オレ、オマエさえ入れば、もう何もいらねーわ」


ぽつり呟いた言葉は彼女にちゃんと届いたか、それは解らない。けれど少しは知っておいて欲しいと思うのは我儘の部類に入るだろうか。
そう思考を巡らせながら"欲求"という醜い感情を込めて、彼女の白い喉元にキスを落とした。




求めてばかりの醜い感情





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