10
「……な、泣くほど嫌でしたか……?」
陽太の言葉に輝明はもう我慢出来なかった。
輝明は差し出された薔薇の花束を受け取り、そのまま陽太を強く抱き締めた。
「て、てるあ……っ、」
「陽太、ありがとう。嬉しい、ありがとう。お前の中に俺がいた事、嬉しい、こんなに人を好きになる事が嬉しいものだとは思わなかった……っ」
否定され続けた人生、拒否され、蔑まれ、異常者だった輝明の前に現れた太陽。
俺はただ恋をしていただけだった。
他の人が異性を好きになるように、俺もまた普通に同性に恋をしていた。
それがいつからから、愛する事が怖くなっていた。
愛されたとして、それは本当に信じていいものなのか。
からわかれているんじゃないか、俺が、『異常者』だから。
でもそうじゃない、……そうじゃなかったんだ。
そう教えてくれたのは、たかが宅配便のバイト生。
そんな彼に偶然出会い、こんなにも素晴らしい想いを教えてくれた。
人生はこれからだとでも言うように、終わりしか見えなかった輝明に希望を与えてくれた。
「……俺もずっと、お前が好きだよ」
輝明は陽太の目を見つめ、そう微笑んだ。
驚き見開かれた颯の瞳からはぶわっと涙が溢れ出す。
(そうだ、お前は……嬉し涙の方が似合うよ)
「俺のために泣いてくれてありがとう。自分を見下して笑うしか出来なかった俺を救ってくれて、ありがとう」
「うっ……ふぇっ……輝明さ、んっ……!」
陽太はぎゅうっと抱き着いてぐずぐずと泣き始めた。
輝明はそんな陽太を力強く抱き締め返す。
「……こんなオジサンで、いいか?」
(また、怒らせることはわかってる。 でも、それが俺を認めてくれている証拠になる。だから、嬉しくて聞いてしまうんだ)
「……っアナタだから……輝明さんだからいいんです!! 馬鹿にしないでください!!」
案の定、陽太は怒った顔をしながらまた涙を流し、輝明の胸へと顔を埋めた。
「本当に、可愛いな陽太は」
暫く泣き続けた陽太を、輝明は愛おしく見つめながら抱きしめ続けた。
嘘で塗り固められたこれまでの日々を全て捨てて、輝明の人生はこれから陽太と紡がれていく。
そう、人生は悪くないな。
陽太と歩むのならなんだって、素敵に見えてしまう。
(初めて完結する作品は、恋愛モノになってしまうかな……)
……そう、愛おしい人を、想い紡ぐ作品に。
<END>
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