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そんな陽太を見ていると、段々輝明の鼓動も激しくなってくる。
真剣な顔と照れた顔と恥ずかしさを閉じ込めた顔。
(抱きしめたいなにこれ可愛い……)
「……輝明さん、俺……あの、……っ!」
陽太は焦りながら話そうとする。
確実にパニックになっている陽太を見ていると、輝明は段々と落ち着いていき、立ち上がって颯の頭に手を置いた。
「大丈夫だ、ゆっくりでいい」
笑ってそう返すと、陽太はポケッとした顔の後ハッとした顔をしてバッと両手を前に出して言った。
「好きです!!付き合ってください!!」
「……へ」
陽太がいつも荷物を運んでくれる両手には、数十本の真っ赤な薔薇の花束が握られていた。
「お、俺、まだお金全然無くて、本当は百本欲しかったんですけどっ、全然買えなくて、すみません……っ」
陽太は何に焦ってるのかわからないけど泣きそうな顔をしながら必死にそう言った。
薔薇が僅かに震えているのは、陽太が震えているからだ。
こんなに緊張しているのに、陽太は絶対に輝明から目を逸らさなかった。
「……お、俺……輝明さんがゲイだって教えてくれたから、こうやって想いを伝えたわけではないです。……いつか、必ず伝えたいと思っていました……」
真っ赤な薔薇と同じくらい真っ赤な顔を隠さずに言葉を紡ぐ薔薇。
「俺、輝明さんの顔が好きなんです!」
「……お、おう?まじ?」
「マジです!!でもそれ以上に好きな所があります!!」
輝明にとって顔が好きと言われるのは人生で初めての経験だし、それだけでもう充分驚きだというのにこれ以上何を言ってくれるのだろうか。
「……俺、アナタの笑顔が大好きなんです!!」
「……っ」
「初めてアナタが笑ってくれた時、俺本当に嬉しくて、一目惚れだったから……俺、輝明さんが笑ってくれるように届け物をする度に、いつも以上の笑顔で笑いかけていました」 輝明が好きだった陽太の笑顔。
それは陽太が輝明を笑顔にするための精一杯の想いを全面に表した素晴らしい笑顔だった。
あの笑顔の裏に輝明自身がいた事に、輝明はなんとも言えない高揚感に襲われた。
「……こ、こんな事言って、こんな子供に言われて困るのは分かります……っ、で、でもっ……?!」
輝明はもう隠すことが出来なかった。
好意を持ってもらえることがこんなにも嬉しい事だなんて知らなかった。
好きな人の頑張りの源に自分が居たなんて、そんな奇跡あるのだろうか。
そんな素敵なこと、あっていいのだろうか。
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