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「俺の何が同じなんだ?」

回想に耽っていた夕はいつの間にかぼんやり日野を眺めていたらしく、慌てて顔を引きしめてまた頑張って口を動かす。

「……あ、あの、……あの、ね、……日野今も……あのときも、……いっぱい、さいごまで、……俺の言葉、きいてくれて……いなかったから、そういうの……おれ、おそいから、ぜんぶ……ごめん、ごめんね……わかんない、よね、……ごめん……」

頑張って説明しようとしたが、考えれば考えるほどに日野の存在が大きく貴重であった事を実感した。
実感したら心が苦しく、悲しい気持ちになっていく。

「待って待って、どうしたの、急にそんな泣きそうな顔して」

伝えたいのに、上手く伝わらない。
会話になるのは日野のお陰だからだ。日野に聞いて欲しいって思うくせに、上手く話す事が出来ない自分が不甲斐なくて、かなしい。もっと話したいのに、寂しい。
俯く夕に見かねたのか、日野は夕のふにふにのほっぺを大きくてごついかさついた両手で包み、顔を上げさせた。

「?」
「大丈夫だよ。俺、昔も今も行光の事『もっと早く喋れ!』とか『何言ってるか分かんねぇよ!』なあんて、言ったことないだろ? 思った事ないからだよ。だから安心して、話したい事、話したいように言ってみて」

無理矢理目を合わせられ、そんな嬉しい事を言われた夕は、ぼぼぼっと顔に火がついたかのように熱くなってしまった。
慌てて日野から距離を取ろうと、震える手で恐る恐る日野の大きな手に触れて、顔から外そうとしたその時、「あ、そーだ!」と悪戯を思いついた子供のような顔で笑う。

「こうして手を繋いで話そう。そうすれば、俺は絶対逃げないし、行光も安心しない?」
「え゛っ」

それは夕にとって拷問であった。
好きな人と手を繋げるのって、恋人の特権なのに……。友達でもない俺が、勝手に日野の手を握ってしまって良いのだろうか……。いやそれよりも心臓が持たない。

「ひ、日野……っ、そ、それは……」
「あ、男同士で手繋いだらキモイ? やだ? 俺はキモイと思わないんだけど……行光はいや?」

あああ……そんな、ず、ずるい……っ。
けれど、狡いとも言えない夕はきっともっと狡いのだ。
少しでも触れて良いのなら、触れていたい。日野の特別になることはきっと一生叶わないから、少しの間だけ、触れ合っていたい。良いだろうか。自分のなけなしの勇気、ここで使っても。

「……い、いいの?」
「うん、いいよ」

なんの事か、なんて聞き返さずに力強く頷いて、それに合わせてきゅっと握られる。
うれしい、日野が俺の手、ぎゅってしてくれてる……うれしい、うれしい……!
夕は思わず口元が緩んだ。日野はそれを見逃さなかったのか、くすくす笑いながら「嬉しい?」だなんて聞いてきた。

「……う、うれしい……」

夕は精一杯頷いて素直に返せば、日野はまた強く手を握ってきた。

「俺も、また行光に会えて嬉しいよ」

俺にとって嬉しい事を言ってくれるのは、いつも日野だ。

日野だけだ。




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