消されちまった憂鬱に

※すべてが満ちる夜とリンク


お家にお船が突っ込んできました。もうもうと立ち上る煙と無残に空いた屋根の穴に刺さったままの宇宙船。何より恐ろしかったのは、名前が在宅中に船が突っ込んでいたことである。夕方再放送の渡る世間は鬼しか居ねーコノヤローを饅頭片手に鑑賞していた時、ゴゴゴゴゴゴ…と重苦しい音がしたと思ったら突然の爆発音。そして衝撃。本能的に二階のから飛び降りてからマイホームを仰ぎ見ると、以下略である。随分前に万事屋に宇宙船が突っ込んできたときに「お前の日頃の行いが悪いからだろ」と某白髪天然パーマへ言い放ったことがあったが、ブーメランだ。加速し勢いを持ったブーメランが今まさに名前の脳天に刺さっている。そして名前の予想通り、あの独特の笑い声が当たりに響いた。野次馬の視線が一層好奇を帯びたものになる。

「辰馬ぁぁぁぁぁああああ!!!」
「お、名前じゃあ〜やっぱここ名前の家じゃったか!あ〜よかったよかった!」
「何が!?何もよくねーよ!馬鹿なの!?馬鹿なの!?」
「おんしに会いにきたかったんじゃあ」
「知らねーよ!せめて玄関から来いよぉぉぉぉお!」

血だらけになった辰馬が挨拶の抱擁をかましてきた。殴り飛ばしてもよかったが辰馬は一応重症人だ。お気に入りの着物が彼の血に塗れていくのを悲しく感じながらぐったりとした辰馬を支えた。遠くからパトカーと救急車らしきサイレンが聞こえてきた。


■ ■ ■


ピンポーンと万事屋のチャイムを鳴らすが応答はない。だが気配はする。失血多量によりぐでーんと意識を失いかけている辰馬を支えている以上、扉を手で開けるのは難しかった。大きく足を振りかぶって、

「ちょっとぉぉぉぉおおおおおおお!!!」
「居留守かテメーら」
「なんだ名前さんですか…お登勢さんが家賃の回収にきたのかと思いました…って玄関んんん!!」
「また家賃滞納してんの?いい加減払ってあげなよ…」

玄関の引き戸を蹴り飛ばした名前を新八が怒鳴りながら出迎えた。その後ろから神楽と銀時が顔を覗かせてこちらを見ていた。銀時は名前が連れている辰馬を見て顔を引き攣らせて帰れ、というように手を振る。名前単体で遊びに来るのは構わない。けれども辰馬が訪問してきてよい結果になった試しがあっただろうか。しかも血まみれの彼らを見る限り、厄介ごとかつ面倒事に違いない。今日はお引き取り願おうと思って玄関で言い争う新八と名前の元に向かうと名前にいきなり手を握られた。熱い視線で見つめられて柄にもなく心臓がざわめいた。血まみれの二人と名前の媚を売るような甘い眼。彼女の口からでる言葉が銀時にとっていいことなのか悪いことなのかが非常に気になった。ごくり、と唾を飲みこむ。

「お願い銀時、しばらく泊まらせて」
「…おいおい、なんでだよ」
「このもじゃもじゃに家破壊されたんだよ」

名前は苛立ちを十二分に含んだ声でそう言い、もはや意識を失っている竜馬を指差した。ちょっと残念である。何を期待していたか銀時自身でもわからないががっくりしたのは事実であった。家主の銀時が許可を出す前に神楽が「名前も今日から万事屋ファミリーアルか?おいしもん食べ放題アル!」と歓喜して彼女の腕を引っ張り居間へと連れていた。いつの間に応急処置をしていた新八に辰馬は放っておくようにいい、銀時も居間へと向かう。ソファーにだらしなく座る名前の顔には疲労の色が浮かんでいた。家を破壊されたうえ、男一人を背負ってここまで来たのだ。もとより体力のない名前には重労働すぎた。出された薄いお茶を啜って、目を閉じる。「お土産はないアルかー?」と言う神楽に「家もねーよ」と言い放った名前。本当に身一つの彼女に新八と銀時は少し同情した。復活した辰馬が名前の横に座り、へらへらと笑う。

「あっはっは!名前、ほんにすまんかったのぉ」
「ぶっ殺すぞ毛玉」
「口が悪いのは相変わらずじゃなあ…本当に嫁ぎ遅れると高杉も心配しちょったぞ」
「え、会ったの?うそ、いつ?」
「一昨日京で会ったんじゃ。おんしに手紙を預かってきて……あれ?」
「……おい」
「落としてしまったみたいじゃあ」

全力で辰馬の頭を机に叩き付けた名前はさらに足で彼の頭を踏みつける。容赦なく体重をかけていく彼女に辰馬の意識は再び飛んだ。胸元からタバコを取り出して吸い始める名前に神楽は嫌そうな顔を隠そうとしない。新八は何を言っても無駄だと分かっているために無言で窓を開けた。

「新八の家の方が広くていいんじゃねーか?」
「新八くんのお姉さんとそこまで親しいわけじゃないし、あたしまだ死にたくないし」
「名前さん、いますっごい失礼なこと言いましたよね」
「だってお姉さんの料理…うん。てか万事屋の方が色々楽だし」
「お前がいいならそれでもいいけどよ」

あたしは万事屋がいいの、の言葉に銀時は了承した。「ただし煙草はベランダで吸え」と言われたので渋々重い腰を上げて名前は喫煙タイムを漫喫することになった。その背中を見つめ顔がゆるむ銀時に、神楽は「気持ち悪いアル」と言い放った。むくりと起きる辰馬は突然笑い出す。ついに頭がおかしくなったかと白い眼を向ける全員により一層の笑い声をあげた。

飲みに行くぜよ、の言葉で大人連中は外食することになった。神楽は新八の家で夕飯を食べてくるという。近所の居酒屋に雪崩れ込んだ名前と銀時は辰馬のおごりということで遠慮なく高いものばかり頼んでいき、互いの近況を聞いた後は昔話に花が咲く。途中で桂が参入したことでより懐かしい面揃えになっていた。戦争中の血なまぐさい話も酒の肴には悪くない。しきりに銀時を攘夷へと誘う桂をぞんざいに扱いながら、ここにはいないもう一人の攘夷志士の話になった。手紙を失くされたことを根に持ってネチネチと攻め立てる名前に「な、銀時、女子は基本ネチネチしておろう」と桂は言い、「名前はアレだ、女じゃねー」と銀時も返す。火に油しか注がない二人に堪忍袋の緒が切れそうになった名前はプルプルと震えた。継ぎ足された酒を馬鹿みたいに煽る、煽る。そこまでお酒に強くない名前がつぶれるまでそうそう時間はかからなかった。座敷に寝っころがり気持ちよさそうに寝息を立てる彼女には危機感がないのだろうか。呑ませておきながら銀時は色々と少し心配した。

「銀時、お前はそろそろ呑むのやめておけ。名前を連れ帰るのだろう?」
「あ、ああ」
「あんま飲みすぎて勃たなかったら白夜叉の名が折れるのぉ。今こそ男を見せるときじゃ金時!」
「…ナニ言ってんのお前」
「おんしが名前にメロメロなのはバレバレじゃあ」
「そんなことないから。ただの腐れ縁だから」

ほォ、そうだったのか銀時。詳しく聞かせろ。と掘り下げる桂を押しのけて銀時は弁解するように辰馬に向かって「ただの幼馴染」「誰がこんな女」と繰りかえす。素直じゃないのォと笑う辰馬としつこく聞いてくる桂、修学旅行の夜のノリに今すぐ帰りたくなった。名前寝顔に落書きしようとする桂の頭を軽く殴り、再び酒を煽る。脈の無い恋なんて虚しいだけだ。

「銀時の傍が一番平和じゃな。ヅラの隣も高杉の隣も名前には重かろう」

普段は能天気な癖に変なところだけ鋭い旧友に頭を抱えた。名前を酔っぱらわせて聞きたいことはたくさんあった。恋人はいるのか、とか気になる奴はいるのかだとか。村塾時代に言っていた好きな奴は結局誰だったのかとか。二人サシで飲むのも良かったが結局四人で飲んでよかったとおもう。戦争で恋人を失った彼女の傷はもう癒えたことが分かった。それだけで十分だった。
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