リヴァイの腰に腕を回し、全力でしがみつき、引きずられる名前からはハートマークが飛び散っていた。リヴァイは人一人を引きずっているにも関わらず、その重みがまるでないかのように歩く。名前の靴先はずるずると地面に引きずられているようだが、彼女は全く気にしていないようだった。目の前を通り過ぎる光景が信じられないエレンは元々大きい目を更に見開き、口をぽかんと開ける。そんなエレンのリアクションを見たハンジはリヴァイを呼び止め、その後ろにいる名前をつついた。
「君は本当にリヴァイが大好きだね。なんかもう、いっそ引くぐらいだよ。明日からリヴァイは旧本部に行くらしいけど、名前は本部で寂しくないの?」
「何言っているんですかハンジさん。私も古城に付いていきますよ?兵長が許可してくれました」
エレンの監視で何時も以上に労力を割くというのによく許可をしたもんだと呆れた溜息をハンジが吐けば、書類に目を通していたリヴァイが視線を上げた。名前はリヴァイの腰に回した腕に力を込めて、幸せそうに顔を緩めた。
「仕方ねぇだろ。どうせ許可を出さずとも此奴は旧本部まで追っかけて来るに決まっている」
「まあ、そうだろうね。名前が旧本部に行くとなるとエレンも大変だ」
突然名前を出されたエレンは首を傾げた。どう見ても大変なのはリヴァイ兵長の方ではないか。一分一秒足りとも離れたくないと全身でアピールする名前は恐らくエレンの見ていないところでもリヴァイに対してこうなのだろう。エレンの勝手なイメージではあるが、リヴァイはこういった必要以上の接触を嫌いそうだ。ストレスにはならないのだろうか。
「用はそれだけか。なら俺は行かせてもらう……馬鹿女、いい加減自分で歩け」
「はぁい」
腰から腕を放し、代わりにリヴァイの腕に自らの腕を巻きつけて密着した名前にエレンは白い目を向けそうになった。リヴァイも暑苦しいのか、丸めた書類で名前の頭をパンパンと叩いていた。
「名前さん、っておっしゃるんですね……優秀な兵士の方なんですか?それにしては線が細かったような……」
「名前は非戦闘員だよ。主に経理を担当しているんだ」
「彼女は兵長の恋人か何かですか……?」
「違うと思うよ?名前がリヴァイに抱いてるのって恋心ってよりファン的な感情っぽいし。きゃー人類最強のリヴァイ兵長よ!かっこいい!!!って騒いでるだけさ」
「それにしては随分熱狂的なファンなんですね……」
一方間違えれば悪質なストーカーになりそうだと失礼なことを思いつつ、エレンはどこか心の緊張が解れたような気もした。ハンジはエレンの肩に腕を回して顔を近づけた。
「まあリヴァイも大っきいおっぱい押し付けられて悪い気はしないんじゃないの?」
「ちょっと、ハンジさん!」
「リヴァイもただの人間だからね。若い美人の女の子とラッキースケベがあるなら嬉しいんじゃない?」
「俺の中のリヴァイ兵長像が崩れていく……」
エレンは頭を抱えたくなった。そんなエレンに真顔になったハンジは眼鏡を押し上げ、声を潜めた。
「まあそれは冗談だとして、名前も旧本部に行くってことは、エレンとも四六時中一緒ってことなんだけど、上手くやれるかい?」
「正直言って、あまり自信はないです」
「名前はリヴァイ以外、その辺に生えてるぺんぺん草くらいにしか見えてないから、向こうから接触してくることはあまり無いと思うけど、リヴァイの前で積極的に名前に接触しない事をお勧めするよ」
「俺からってことですか」
ハンジは頷き、どう説明しようかと思案するように自身の顎に指を当てて虚空を睨んだ。
「私の予想ではね、リヴァイは名前のことが好きだと思うんだ。まさかファンじゃないよ?三十路男の恋心さ。エレンもリヴァイの機嫌を損ねたく無いだろう?」
「……リヴァイ兵長が、名前さんの事を、ですか?」
「リヴァイは自分に向けられている好意がそういうものじゃないって分かってるせいで何も出来ないんじゃないかなって、まあ勝手な妄想だけど」
ハンジは笑う。エレンは信じられないし納得できないというモヤモヤとした思いを抱えたまま旧調査兵団本部に移ることになった。
「この馬鹿女!いい加減兵長から離れなさいよ!兵長が掃除できないでしょう!」
エレンはペトラの怒鳴り声に首を竦ませた。リヴァイに言われた通り部屋の掃除をしているエレンの耳に名前とペトラの言い争いが聞こえてくる。それにオルオが口を突っ込んで袋叩きにあっているようだ。関わらない関わらないと自分に言い聞かせながらやり切った掃除を、リヴァイにより一も二もなく不合格だと言い放たれたエレンはガックリと膝を落とし、その背中をエルドが優しく叩いた。