幸せを抱いた夜

 
壁外調査の最中に見つけたという珍しい植物をハンジは鉢植えに移し、日当たりのいい窓際に置いた。ハンジが持って帰った鉢植えにせっせと水をあげたのはモブリットだ。大きな蕾が花開くのをまだかまだかと待っている。彼が何気に大切にしていた鉢植えがハンジの部屋から消えたのは寒い冬の日だった。

「えっ、あげちゃったんですか?」
「うん。リヴァイが気に入ったらしいから。それにもうすぐリヴァイの誕生日だからね、一足早いけどプレゼントってことであげちゃった」
「そうですか」
「モブリットが欲しかった?」
「いえ、そういうわけではないのですが」

その後、ハンジから受け取った書類をリヴァイの執務室に持って行くと見覚えのある鉢植えがリヴァイの棚の上にあった。何故か鳥籠の中に入れられている蕾にモブリットは首を傾げる。土が床に落ちないようにだろうか?今にも花開きそうな鉢植えを視界に収め、モブリットはリヴァイに巨人についてのレポートを渡した。

「あの鉢植え、お前が世話をしていたらしいな」
「えっ、はい。世話と言っても水をあげていただけですが」
「あいつも喜んでいた」
「あいつ、ですか?」

リヴァイは鳥かごを指差す。日に当たり花開いた植物に目を細める。花の言葉を代弁するような真似、思っていたより兵士長はロマンティックな人間なようだ。それはよかったです、と答えるモブリットにリヴァイは鼻を鳴らす。モブリットがリヴァイの部屋から出るとき、部屋の主は鳥籠の鍵を開けようとしていた。

「リヴァイさん、リヴァイさん」
「なんだ」
「あの人、私にずっとお水をくれた人だったんですね」
「お前の代わりに礼は言っておいた」
「直接言いたかったなあ」

リヴァイが鳥籠の中に手を入れると、開いた花の中からリヴァイの親指ほどの大きさの少女が出てきてリヴァイの掌に乗った。慎重に手を動かして彼女を外に出したリヴァイは席に戻り、ソーサーの上に載せた。

「今度言えばいいだろ。どうせモブリットはまた来る」
「そうですね」
「あんまりちょろちょろするなよ。落ちたり潰したりしたらお前も俺も困る」
「はぁい」

リヴァイが彼女を見つけたのは偶然だ。エルヴィンが呼んでいるのにいつまで経ってもこないハンジを呼びに来たリヴァイは彼女の部屋に似つかわしくない鉢植えを見つけた。寝ていたハンジが身支度を整え終わるまで暇つぶしに蕾を眺めていたリヴァイは、その花弁の隙間から小さな目と目が合ったのだ。驚いたリヴァイがパチクリと瞬くと、恐る恐るというように彼女が花弁を掻き分けて出てくる。そうっと差し伸ばされた小さな手がリヴァイの頬に触れた。すぐに引っ込んだそれだったが、その瞬間、リヴァイはこの鉢植えを貰おうと決めたのだ。

「お前、大きくなってないか?」
「えっ」
「昨日はもう少し小さかった気がする」

リヴァイは引き出しから定規を取り出して彼女の横に立たせた。十センチほどだろう。そしてその高さをメモする。

「いつ迄も花の中じゃ寝心地悪いだろ。明日用意してやる」
「お花の布団は気持ちいいですよ?」
「お前が動き回るとお前についた花粉が散るんだよ」

今も彼女の髪には花粉がついている。ふっ、と息を吹きかけられた彼女はソーサーの上で盛大にひっくり返った。花びらでできたワンピースが巻き上がる。

「酷いです」
「悪いな。思ったより軽かったみたいだ」

リヴァイは頬を膨らませる彼女に小指を差しのばした。小さな手がそれに捕まり立ち上がる。よいしょっと、と立ち上がった彼女はソーサーから降りて机の上をふらふらと歩く。モブリットが持ってきた書類を読もうと思ったリヴァイだったがちょろちょろと歩く彼女が気になって仕方ない。大人しくしてろ、と彼女を胸ポケットに突っ込んだ。暫くもぞもぞとしていたが居心地のいい姿勢を見つけたのか大人しくなる。

「リヴァイさん」
「なんだ」
「リヴァイさんの心臓の音、聞こえますよ」

自由の翼が縫い付けてあるポケットから顔を出した花の精はリヴァイの左胸に小さな耳を押し当てる。一定のリズムで刻まれる心音にうっとりとする彼女を見つめるリヴァイの目は慈愛に満ちていた。

「童話の姫みたいに浚われてくれるなよ」
「?」

童話の親指姫はヒキガエルやらコガネムシやらに浚われたうえモグラと結婚を強要されている。そんな哀れな目には合わせない。リヴァイの心音に眠気を誘われている彼女を鳥籠の中に戻し、しっかりと施錠した。
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