3つの後悔

 
一昨日は中庭の花壇の直ぐ側。昨日は図書室の入り口。今日は渡り廊下。今日も名前が失神しているのをリヴァイが見つけ、助け起こした。見つけた、という表現には語弊があるかもしれない。彼女はリヴァイと目が会うたびに失神しているからである。リヴァイはいつものように渡り廊下の途中で意識を失った名前を臥位にし、衣類を軽くゆるめた。

「おい、名前、名前」

数回名前を呼び、軽く頬を叩く。名前の眉根が寄り、軽く唸ったのを確認した後、リヴァイは彼女の体を軽く揺する。普段より一層白くなった顔色が少々心配だった。リヴァイのせいとは言えないが、こうも倒れると彼女の体にも負担がかかる。渡り廊下の反対側からミケとハンジが歩いてきた。倒れている名前と助け起こすリヴァイの様子を見てまたやっているのか、と呆れたように笑った。

「お姫様は今日もお疲れかい?」
「平常運転だな。さっきまで立体機動装置で飛び回っていたのにな」
「こないだの壁外調査で巨人に食べられかけてもピンピンしていたのに、リヴァイを見るだけで気絶するなんて一体君、名前に何したの?新兵いじめちゃダメだよ」

ハンジが興味深そうにリヴァイに尋ねた。その問にリヴァイは答えようとしなかった。リヴァイでも良くわからないのだ。名前から事情を聞いているミケも二人の為を思って知らん顔を貫いた。三人の話し声で気が戻ったのか、名前の目がゆっくり開き、ぱちぱちと瞬きをした。ハンジがリヴァイを押しのけたため、彼女の視界の八割をミケとハンジが占めた。

「あ、分隊長…と兵長」
「頭は打ってない?大丈夫?」
「痛みは無いので大丈夫だと思います」

たんこぶが出来ていないかどうかを調べるためにハンジは名前の頭を撫で回す。ミケも名前の頬に張り付いた髪を払うのをみてリヴァイは忌々しげに舌打ちをした。その音に彼女は首をすくめる。毎回会うたびに失神するなど兵士失格以前に失礼すぎる。なるべく会わないようにしているものの、避けるのにも限度はあるのだ。起き上がった名前の目の前にリヴァイが現れる。体がびくりと震えたものの、気絶はしなかった。不意に現れるとダメなようだ。

「お前、そんな状態で今度の壁外調査にいけると思っているのか」
「…すみません」
「少しはオルオやペトラを見習え」
「本当にすみません…」

同期の名前を出されて名前は落ち込んだ。ただの新兵が兵長の手を煩わせてしまっている。決してリヴァイと目を合わせようとしない名前をハンジは面白そうに見ていた。ハンジが意外なのは、リヴァイがなんやかんやで名前に構っていることだ。彼なりに慣らそうとしているらしい。リヴァイが立ち去った後、緊張が解け、腰を抜かした名前をミケが抱き上げた。オルオとペトラがリヴァイ班に配属されると同時に名前もミケの班に配属されたのだ。小柄な名前がミケに抱えられている姿はよく見る。

「名前はどうしてリヴァイが苦手なの?」
「あ…えっと…」
「内緒にしてあげるから言ってご覧?」
「こないだの壁外で、兵長が、私が気付かなかった後ろの巨人を倒そうとしてくれた時に…なんていいますか、恐ろしい勢いで飛んで来られたもので…うーんと」

巨人の前に名前がいたためか、リヴァイに殺されると錯覚したらしい。それからトラウマになったようだと言葉少なに語る。ハンジはなんとも言えない顔をした。そして、少しリヴァイに同情した。名前自身はリヴァイを尊敬し、敬愛している。だが、リヴァイの姿を見るといろいろな恐怖を思い出してしまう。頭から齧られる同期の姿。地面に落ちていた足。巨人の口から吐き出された立体機動装置。そして自分に向かって刃を振り上げる兵長の姿。

「うーん。どうにかしてリヴァイに慣れてみようか」
「はい…」
「ミケ、たまにこの子借りてもいいよね?」
「ああ」

ハンジの言葉にミケと名前は頷いた。どうしたら慣れるかなーとぶつぶつ考察しだしたハンジ。彼女の作戦が受け入れやすいものであることを名前は全力で祈った。その様子はまるで苦痛から逃れようと必死で神に祈る無宗教者のように見えた。

「リヴァイは君を高く評価しているし、同時に気に入ってもいるんだから安心しなよ」

不安げに頷いた名前の腕を励ますように叩いた。渡り廊下の窓の下でリヴァイが見上げているのにミケだけが気がついていた。
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