死に方を探して息をする

リヴァイに呼び出された名前は数枚の書類を片手に彼の部屋を訪れていた。リヴァイの部屋の前で服を軽く払い、砂埃を落とす。軽いノックの後、塵一つ無い部屋へと足を踏み入れた。扉の対面上に大きな窓があり、その窓に背を向けるように椅子と机があった。紅茶を飲んでいたリヴァイは入ってきた名前に視線を飛ばし、彼女が脇に抱えている書類を受け取るためにスプーンから指を離した。

「ご苦労」
「次回の壁外調査の日程が決まったようですね」
「ああ。二週間後だろう。今回は三日の予定らしい」
「班編成に変更はありますか」
「いや、ない」

名前がリヴァイに渡した書類は104期訓練兵団第一回希望兵団調査の結果だった。今年も例年と同じく調査兵団希望は少ない。まあ、まだ第一回目の希望調査だ。皆、最初は意識高く憲兵団と書くのが恒例だ。ひと通りリストと評価に目を通したリヴァイはその書類を机の引き出しの中にしまった。

「…名前」
「はい?」
「敬語は必要ないと何度言えばお前は理解するんだ」
「班長が兵士長に敬語を使うのは当然でしょう」
「……」

やや不服そうな顔をするリヴァイ。一般兵士の前では敬語を使うべきだが、ここは兵士長の執務室。他人の目はないのだから敬語である必要はない。同期の名前に敬語を使われる違和感は何年たっても消えないものなのだ。役職が離れていけば離れていくほど二人の距離も離れていく。それがより如実に現れるのが、名前の敬語だ。

「紅茶」
「はいはい」
「マグカップは左端のものをつかえ」
「お気遣いありがとうございます」

飲み終わったリヴァイのカップと戸棚に収納されたカップを持って名前は紅茶を淹れに行った。兵士長だ班長だと距離を置くくせに、名前はよくリヴァイの執務室でサボる。それを最初はとがめていたリヴァイだが、最近では黙認するようになった。それを知ったハンジはおもしろそうに口角をあげていたが。そして名前に言うのだ。「ねえねえ、リヴァイと昔みたいに仲良くしなよ。リヴァイ、名前に余所余所しくされて寂しいんだよ」と。

「熱っ…仲悪いわけじゃないんだよなあ」

湯が跳ねて、名前の手に飛沫が飛んだ。名前とリヴァイは恋人ではない。ただの、調査兵団の同期だ。本当に数少ない同期だから、多少の融通は効く。だが、片や調査兵団のナンバー2だ。リヴァイは気にするなと言ってくれるが、どこまで接していいのかはわからない。

「リヴァイ…兵長」
「あん?」
「どうぞ、紅茶です」

リヴァイに紅茶を渡した名前はソファーに腰掛けて、自分も紅茶を啜った。清潔な部屋で高級な茶葉を無料で味わえ、なおかつ業務をサボれる。名前にとってここは快適すぎた。私物の本を読みだした名前にリヴァイは何も言わない。

「名前。あとでこの書類をハンジに渡しておけ。ついでに言付けとけ。『予算の相談は俺じゃなくてエルヴィンにしろ。エルヴィンに断られたものを再三、俺にまわしてくるな』一語一句間違えずに伝えろ」
「はい…あとでですね」
「……」

彼女を信用することにしよう。リヴァイは仕事を片付けるためペンを握り、意識を名前から書類へと移行させた。しばらくして、凝り固まった肩を回そうと顔をあげると、そこにはソファーで惰眠をむさぼる名前の姿があった。顔の上に本を載せて微動だにしない。午前は訓練だったから疲れているのだろう、と勝手に許す言い訳を頭のなかで組み立ててしまう自分に眉が寄る。これがハンジならたたき起こしていた。ソファーに寄り、名前の肩を少しだけ揺らす。

「おい、寝るなら奥の仮眠室を使え。風邪を引くし、落ちるぞ」
「…うーん」

小さな声で唸った名前は起きる気配がない。ここで寝たいなら、好きにすればいい。リヴァイは空になったマグカップを回収し、シンクの水につけた。自分の分のお代りを新しいカップに注ぎ、机へと戻る。

「失礼します、兵長」
「入…れ」

入室を求める声に、一瞬ためらったが、許可をだした。案の定入ってきた兵士はソファーで眠る名前の姿を見てぎょっとするが、慌てて書類をリヴァイに渡し、早々と部屋を出て行った。閉めきるまで手を添えていなかった扉は大きな音を立てて閉まる。その音で名前は眠りから覚めた。顔の上の本をどかし、ソファーから足を下ろす。

「ふわぁぁあっ…」
「起きたか。寝るなら仮眠室を使え」
「いや、仕事に戻ります」
「そうか」

名前は首をコキコキ鳴らしながら部屋を出た。静かに閉められた扉をしばらく睨んでいたリヴァイだが、雑念を払うように頭を振り、事務作業に戻った。名前は寝起きで回らない頭を叩きながら先ほど言われた伝言を繰り返す。ハンジがいるであろう部屋の扉を勢いよく開けた名前は伝言ですーと気だるそうに声を上げた。
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