心についた痣

前回の壁外調査で負傷した左足を引きずるようにして歩いていた名前は一体何処で松葉杖を忘れたのかと首を捻っていた。食堂に行った時には確かに持っていた。壁を伝うように歩く彼女の姿を見かけた者は手を貸そうと声をかけていたが、それは名前の高すぎる矜持によって断られていた。

「…手伝ってもらえばよかったな」

石畳に足を取られ無様に転がる。這いつくばるように進む名前の頭に衝撃が走った。この痛みと重さは屈辱と共に記憶に刻まれている。地面に爪をたてていた右手をゆっくりと持ち上げ、自分の頭の上に乗せられた足を払う。名前に足を払われたリヴァイはそのままの動作で彼女の横に膝をつき、髪を掴みあげた。

「無様だな。何してんだお前」
「兵長には関係ありません。あっち行ってください」
「お前の怪我の治りが遅くなればその分だけ調査兵団の戦力が落ちる。俺は調査兵団の兵士長だ。無関係なわけが無い」
「……」
「杖はどうした」
「どこかに忘れたんです」

リヴァイは名前の髪を離す。彼女の頭はその重さと重力に従って地面に落ちた。痛みと共に額がジンジンと熱を持つ。舌打ちと共にリヴァイは名前の右腕を自らの右肩に回し、左脇に腕を通した。身体が持ち上げられる。

「申し訳ございません」
「今日は随分と素直だな」
「散々躾られましたから。今此処で反抗でもしたら地獄を見るのは明らかですから」
「ほう」

あざ笑うかのように鼻で笑ったリヴァイは名前の体重が掛けやすいようにと腕を抱え直す。遠慮無くもたれ掛かる名前はリヴァイと身長がほぼ変わらない。そのおかげか随分と楽だった。恥ずかしいのか名前は顔を伏せる。その耳が赤く染まっているのをリヴァイは視界の端に捉えていた。同時にこちらに駈けてくる少年兵の姿も捉える。

「兵長!」
「…エレンか。丁度いい。こいつの杖を探してこい」
「えっ?あ、名字班長どうしたんです?」
「いいから行け」

顔を伏せていたせいか至近距離でやっと名前を認識したらしいエレンは心配そうに手を貸そうとしたが、それはリヴァイによって阻まれてしまった。リヴァイがエレンの腕を払ったことにより名前のバランスは崩れて倒れそうになるのを再びリヴァイが支えた。意図せずとも密着する男女の光景がなんとなくむず痒く見えたエレンは立ち去りたくなったが、自分がなんのためにリヴァイを探していたのか思い出して踏みとどまった。

「兵長、ミケさんが急用だそうです」
「チッ…おい」
「はいっ」
「こいつを部屋に運んでやれ」
「はい!」

リヴァイから名前を受け取ったエレンは、できるだけ丁寧に彼女を抱えた。急に上がった視界に名前は慌て、エレンの胸板をぱしぱしと叩いた。兵士といえども女。お姫様抱きに憧れていた時期もあったが、まさか年下の少年にロマンの欠片もなくされるとは想像もできず、何より羞恥心が圧勝した。ぐいぐいとエレンを押し、距離を取ろうと暴れる彼女を抑えこむように力を込めると無理やり抱きしめているような錯覚に陥った。

「エレン!」
「は、はいっ!」
「放しなさい」
「あの…兵長の命令ですので承知できません」

エレンの言葉に名前はミケのもとに行くでもなく傍観しているリヴァイを睨む。リヴァイも睨み返す。大人しくしていろということなのだろう。数秒の抵抗の後、名前は折れた。足が痛んだこともあり、ぐったりと力を抜く。熱も下がっていなかったのに無理をしたせいで身体が悲鳴を上げているのだろう。

「おいエレン」
「はい!」
「大切に扱えよ」

リヴァイは後ろから彼の耳を引っ張り、警告を発した。エレンは必死に首を縦に振る。込めていた力を抜き、今度はティスプーンを扱うような力加減で名前を支えた。それを見てリヴァイはようやく満足したようにエレンの背を押した。彼女を部屋のベッドに寝かせた後、エレンは部屋を見渡す。必要以上に整理整頓され、ゴミ箱にも塵一つ無い様子を見て下手な勘ぐりをしてしまったが、必死にその雑念を振り払った。
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -