嘘の数え方


万事屋の居間にある接客用のソファー。数分前から無言でそこに腰を下ろす客のせいで、銀時達は気まずい沈黙に責められていた。新八が淹れた緑茶もすっかり冷めてしまった。以前にも、こんな感覚を味わったことがあった。あれは紅桜の一件で、エリザベスが来た時だ。なんの因果かしらないが、現在、銀時の目の前にいる女は鬼兵隊に所属する女だった。新八と神楽は、交戦はしてないものの、船の中で高杉と並ぶ名前を見ている。

「………」
「…もう嫌ですよ銀さん。どうにかしてくださいよ」
「しゃーねーだろ!俺にもどうしよーもねーよ。オイ神楽。お前、腐っても女だろ。乙女心とか分かんだろ?なんとかしろよ」
「乙女心は繊細ネ。同じ女でも時と場合で理解できないことばっかネ」

三人のため息が重なる。これならまだ斬りかかってきてくれた方が楽だった。銀時は俯いた名前を見ながら頬を掻いた。昔から何を考えているかわからない女だったが、暫く会わないうちにますますわからなくなっているらしい。

「おい。名前」
「……」

ちらっと銀時をみた名前だったが、結局顔を逸らして黙り込んだ。黙りこむ理由があるのだろうが、さっぱり見当がつかない。

「シカトかこのやろー。ったく本当に何しに来たんだよこいつ」
「チンピラ警察呼んだほうがいいアルか?」
「ほっとけほっとけ。それよりお前ら夕飯の買い物にでも行って来い」
「え?」
「こいつは俺がなんとかするから行って来い」

顔を見合わせた新八と神楽だったが、渋々と行ったように出て行った。玄関の扉が閉まる音を聞いた名前はゆっくりと冷めたお茶に手をのばした。湯のみを掴み、啜る。ぱちり、と二人の視線は合った。

「で?」
「いや、しばらくここに厄介になろうと思っていたんだけど」
「は?」
「高杉と喧嘩したの。流石に桂のところには行けないし、辰馬は連絡取れないし、行く場所無いの」
「お前他に友達いねーもんな」
「うるさい」
「喧嘩って…ガキじゃねーんだからよぉ…」

呆れたような声色で銀時は名前をなだめる。馬鹿馬鹿しい。家出少女の受け入れは万事屋の業務外だ。お茶を飲みきった名前は胸元から厚みのある封筒を机の上に置いた。

「はい、依頼金。お金を積めばなんでもしてくれるんでしょ。万事屋って」
「なんでもはしねーよ」
「お金を積めば過激攘夷志士の駆逐もしてくれるんでしょ」

先の一件を盛大に皮肉ってきた名前に銀時は眉を寄せる。確かに銀時のせいで鬼兵隊は痛手を負った。だが、それは自業自得ともいえる。結局のところ、名前はまだ鬼兵隊に所属しているのか、それとも脱隊したのか。目で尋ねる銀時から視線を逸らした。つけっぱなしのテレビでは結野アナが天気予報を報じている。

「厄介事は、御免だぞ」
「…肝に銘じておきます」

ふぅ、とため息をついた銀時はにやっと笑った名前を見て頭が痛くなった。頭も冷えれば勝手に帰るだろう。さて、神楽と新八に何と説明すればいいのだろうか。階段を登ってくる二人分の足音が聞こえてきた。数分を置かずに神楽の「ただいまヨー」との声が聞こえた。

「名前、炊事洗濯できんのか?」
「……」

使えねえ。そういえば名前は家事が徹底的に下手だった。戦時中も彼女の作った飯はいつも文句の対象だった気がする。銀時に背を押された名前は神楽と新八の前へと押しやられ、ぐいっと頭を押された。

「これからここに住む名前ちゃんでーす。みんな仲良くしてくださーい」
「銀時、貴様…」
「え?!ここに住むアルか?!」
「わああ!神楽ちゃん!キャベツ粉砕しちゃうって」

驚きにより神楽が握りつぶそうとしたキャベツを新八が慌てて奪い取る。驚いていた二人だが、銀時の有無を言わせない様な視線を受けて黙った。ここの家主は銀時だ。

「夕飯は俺と名前で作るからお前らはあっち行ってろ」
「私料理できな…」
「おめーは黙ってろ」

名前の頭を押さえつけたまま銀時は台所に入り、夕飯の下準備をはじめた。新八と神楽は居間に移り、その様子を遠巻きに見守る。あーでもないこーでもないと言い争う声が聞こえていた。どうやら彼女は味覚音痴らしい。

「銀ちゃん楽しそうアルな」
「ね…」

盛大に騒ぎながら食卓に乗せられた夕飯。名前が担当したお味噌汁は戦時中と同じように薄すぎる薄味だった。握り飯を作らせれば塩の均等でない歪なお握りが出てき、お茶を淹れさせれば茶葉が混じる。

「「「薄い」」」
「ふん」

無性に昔が懐かしくなる味に銀時は白米を掻きこむ。高杉は文句などいわなかったと言う名前に三人は白い目を向ける。箸を名前に向けて「帰れヨ」と言い放った神楽に反論することは無かった。
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