ヒーローの悪癖

第七師団によるクーデター。阿呆総督を消した後、神威が総督の座に収まったのを確認した万斉は、高杉とともに春雨の艦内を歩いていた。これで鬼兵隊も一安心。春雨の手先ではなく、盟友として共に動くことができる。神威と新しい契約も設けることに成功し、宇宙に用事はなくなった。

「万斉様!」

その甲高い声にまず振り返ったのは高杉だった。振り返えざるを得なかったともいえよう。万斉の名前を呼んだ彼女は高杉の腰に腕をしっかりと回し、彼の身体をホールドしていた。高杉は、膝をつきすがりつくその少女の姿に隻眼を少し見開いた。夜兎と同じようにチャイナ服に身を包んだ名前は、少し前に殉職したとされていたからだ。目下、地球で行方不明の彼女がどうしてここにいるのか。高杉は眉をひそめる。

「…名前か?」
「はい、晋助様。名前でございます」
「名前、まずは晋助を放せ」

万斉の言葉に頷いた名前は高杉から身を離した。もともと乱れている胸元がさらに乱れ、薄暗い廊下の雰囲気もあってか高杉からは唾を飲むほどの色気が出ていた。そんな高杉の姿に名前は頬をぽっと染める。来島もここにいたら同じような仕草をしただろう。

「…名前、どうしてここにいる?」

一ヶ月前から消息不明の彼女がどうして宇宙海賊春雨にいるのか。万斉に尋ねられた名前は高杉をちらちらと見ながら重い口を開く。情けない話なので、万斉はともかく高杉には聞かれたくないのだ。だが残念ながら、高杉は名前の視線を意にも解せずに話を聞く姿勢に入った。とは言っても、壁に背中を凭れ掛からせて煙管を取り出しただけだが。

「ひとまず私を鬼兵隊の船内に連れて行ってくださいませんか。見つかったらまずいのです」
「お前の現状を簡潔に話せ。俺達は春雨と盟約を結んだばっかなものでな」

名前が戦火の種になる可能性があるなら、鬼兵隊が保護するわけにいかない。そう言外に言われた名前は高杉を軽くにらみ、腕を組んだ。

「晋助様。晋助様はもっと部下想いの方かと思っておりました。名前は残念です。宇宙海賊に拉致された部下が命からがら逃げ出してきたというのに、まさか見捨てられるなんて」

そっぽを向いた名前の顎を掴み、無理やり自分の方を向かせた高杉は彼女の目をじっと見た。無礼は承知だ。だが、名前も引かない。急き立てられるように口を開いた。

「先日の任務のおり、海岸で仮眠をとっていたところ人身売買の輩に捕らえられまして、目が覚めたら宇宙でございました」
「阿呆か」
「丸腰の私をか弱い女と判断した奴らは拘束もせずに部屋に放り込んだだけだったので、食事の折に逃げ出し、捉えていた少女達を地球行きの船に乗せたはいいのですが、追手がきてしまい私は逃げそびれてしまいました。」

高杉は呆れたような表情を珍しく表に出して名前を見ていた。馬鹿な奴とは思っていたが、ここまで馬鹿だったとは。
そもそも、なぜ誘拐されるときに起きなかったのか。一方の名前は真剣に語りだす。まだ続きがあるのだ。

「今度こそ拘束されて牢にぶちこまれた私ですが、たまたま地球産ということで春雨第七師団長の目に止まりまして……屈辱的なことですが、お世話係としてこき使われていました」
「第七師団……神威殿でござるか」
「けれども先日のクーデターの折、やっと神威の目を逃れ、脱出できたというわけです。この4日間、生きた心地がしませんでした」

高杉達が来ているということを小耳に挟んだ名前は春雨の者に見つからないように潜伏しながら高杉を探していたのだ。天井裏で寝る日々はもう金輪際御免である。ふかふかの羽毛布団で四肢を広げて寝たい。

「と、いうわけでござります」
「……」

厄介事の匂いしかしなかった。名前はもちろん自分を連れて行ってくれるだろうと高杉と万斉を期待のこもった目で見る。
高杉は腕を組み、煙を名前に向かって吐きかけた。その煙の匂いでさえ懐かしく感じた名前は仰ぐようにして紫煙を吸い込む。

「晋助、どうするでござるか」
「……神威に話つけにいくしかねーだろ」

やったー!と名前は声と腕を上げる。置いていくなんて言われた日には抜刀していた。是が非でもついていく。高杉は名前の全身に目をやり、スリットから見える生足でしばし視線を止めた。挑発的に足を魅せる名前に万斉はため息を吐いた。先に船に行けと言われ、彼女の腕を引いた。

「……そなたが生きててよかった」

万斉の小さな呟きを拾った名前はコクリと頷き、彼の隣に並んだ。神威には高杉がうまく話をつけてくれるだろう。
鬼兵隊の船のなかに入り来島を見つけた名前は歓喜の叫び声を上げながら彼女に飛びついた。名前に気がついた来島も同じように声を上げる。楽しそうな女二人の姿に武市と万斉は苦笑いを浮かべた。
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -