でたらめな愛のうた

夜半に目を覚ますと隣で寝ていた高杉が居なくなっていた。ゆっくり上半身を起こすと、布団がずり落ちて肩が震える。寒い。指で探るように手を伸ばし、彼が寝ていたであろう布団に触れても、そこにあの人がいた形跡は見つけられなかった。指先から滲み寄ってくる寒気が手首に伝わる前に名前は布団から抜け出し、部屋を出た。静かな廊下を寒い方へ寒い方へと歩く。夜空を飛ぶ船の甲板に出た時、高杉の背中を見つけた。

「こんなところに居てはお体を冷やしますよ」
「…名前か」

高杉に拒絶されない事を悟った名前は彼の方に歩き出す。片手に持った羽織を高杉の肩にかけた。甘い紫煙の香り。指先が触れた高杉の着物も冷え切っていた。

「すっかり冷えていらっしゃる」
「そんな長いこといないはずだが」
「嘘。布団も冷えてましたよ」

隣に並んで街を見下ろす名前の体を高杉は片手で抱き寄せた。頬を寄せる胸は冷たい。よくもこんな気温のなか布団から出ようなどと思えたものだ。ほっ、と高杉の胸のなかで息を吐くと「温かけェな」と囁かれた。嫌らしく腰に這う指に上を見上げる。

「こんなところでは御免ですよ」
「お前に風邪を引かれるのは厄介だ」
「鬼兵隊首領がお風邪を召される方が厄介です」

風と紫煙から名前を守るように体勢を変えた高杉は船から街を見下ろす。一際目に付くターミナルに名前を抱きしめる力も増した。腕に鳥肌が立っている。それが寒さ故なのか嫌悪感故なのかは分からない。彼の腕の中で大人しく目を閉じる名前の脳天に口付けた。

「戻るぞ」

彼女を解放した高杉は煙管の灰を空から落とし、真っ暗な船内に向かった。その後を追う名前は、高杉が羽織に腕を通し始めるのを見て、やっぱり寒かったのではないかと笑った。眠気は醒めてしまったが、また温かい布団に入れば微睡むだろう。高杉の背を追った。
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