上手に泣けないあなたへ

直視できないほどにまぶしい太陽の光を浴びて、彼の髪は艶やかに輝いていた。珍しい髪色と言えば聞こえがいいが、この国では異質なその銀髪を血でコーティングした彼は仲間の刀を拾っては捨てていた。うめき声が聞こえれば刀を手に声の元に向かい、天人であったらなら息の根を止める。淡々としたその作業は酷く彼を無機質なもののように見せた。地面に座り込み、銀時の一挙一動に対して口を出すわけでもなく眺める。待っていろなんて言われていない。名前が勝手に待っているだけだ。滴る汗をぬぐったとき、彼女は胸元に飴玉が入っているのに気が付いた。

「銀時」
「…あ?」
「飴玉見つけた」
「へェ」
「いる?」
「もらう」

片手を上げる銀時の右手に向かって赤い飴玉を投げた。小さなその飴は銀時の大きな手に簡単に収まり、透明な包み紙を剥がされた後は口内に収められた。真剣な顔つきがホロリと崩れ、しまりのない顔に代わった。どうして飴なんか持っていたのかと記憶をたどるうちに銀時は再び使えそうな刀を探し始める。彼の刀は刃こぼれが酷くて使い物にならないのだろう。前、見せてもらった刀は今にも折れそうで、どんな戦い方をしたらここまで酷使することになるのだろうと首をひねったものだ。

「なあ名前」
「いいものでもあった?」
「死体しかねーな…そうじゃなくて」
「どうしたの?」
「この戦が終わったらよぉ」

背を向けていた銀時がゆっくり振り返り、その赤い目が名前をとらえた。先ほどの飴玉より、少しだけ茶色がかった赤。重たげな瞼が瞬いた。日頃からけだるそうな立ち振る舞いの彼が生き生きとしているのはご飯の時か戦っているときだけだ。もし、この戦が終わったら。

「この戦が終わったらよぉ、一緒に江戸に行かないか?」
「どうして江戸?」
「嫌か?」
「江戸なんて行ったことない」
「俺もだ」
「苦労させるかもしれねーけど、一緒に来ねーか?」

銀時の足もとに居た天人から血しぶきが上がり、小さな断末魔が聞こえた。空気が澄んだ空には薄い雲が差していた。名前の返事を待たずに銀時は陣への帰り道に足を向けた。わざとゆっくり歩く彼は彼女が追ってくるのを、隣に並ぶのを期待しているのだろう。名前は迷っていた。どうせ行く当てはないのだから銀時と一緒に行ってもいいのだけれど、どうして自分を誘ったのか気になったのだ。

「銀時!」

その場から動くことはなく、名前は声を張って彼を呼んだ。振り返る彼の髪には太陽の光がよく映える。

「どうしてあたしを誘ったの?!」
「…飴玉くれたからァ!」

彼の口から、「好きだから」とか「一緒にいたいから」なんて答えが聞けるとは思っていなかったけれど、まさかそんな適当な答えが返ってくるとは思わなかった。ちろっと赤い舌を出した銀時が笑う。きっと彼にとってあの時、あの瞬間、彼女が飴玉を持っていたという事実は重要だったのだろう。重たい腰をあげて銀時の背中を追いかける。彼の銀髪は太陽がよく映えるから、一緒に行こうと思った。
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