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沖田はオンラインゲームのログイン画面を開きながらスカイプにサインインし、オンライン状態にした。デスクの上に置いたコカコーラを一口、ゲームのチャットとスカイプのチャットをにらみ続けた。反応があったのは、スカイプのチャット画面。名前がオンラインになると同時にチャット部分でペンマークが出る。沖田は肩をまわし、相手の様子を伺った。ペンマークが出たはいいが、何も書き込まれない。

「おい総悟、なにぼーっとしてんだよ。書類仕事が嫌なら聞き込みでも言ってこい」
「現在進行形で聞き込み調査中でさァ。土方さんこそ気分転換に外にでも出た方がいいんじゃないんですかィ」
「てめっ!…ってお前なにゲームなんかしてんだよ!」
「しっ!静かにしてくだせェ…ったくもう」

ペンのマークが出ては消え、出ては消えを繰り返す。沖田はそれを固唾を飲んで見守っていた。沖田の後ろに立つ土方もその様子を見て押し黙った。手に持っている書類を意味も無く指でなぞり、コンピューター画面を見守る。

「こっちから接触できねェのか」
「できるんですけどねィ…重要なのはタイミングでさァ」

沖田は夜食として山崎が買ってきていた焼きそばパンを鞄の中から取り出して食べ始める。いつの間にかペンマークは沈黙していた。同時にため息をつく土方と沖田。見ると名前のスカイプオンライン表示は取り込み中になっていた。ゲーム画面ではプレイ中になっている。沖田よりゲームをとったようだ。

「…ナメてんのかこの女」
「……」

土方は銀時から聞いた情報と自分たちが調べ上げた情報をまとめて整理していた書類を沖田のデスクに叩き付けた。かわいらしい熊のマスコットを使って要点を整理しているあたり神経を巧い具合に逆なでしてくる。

「紅蜘蛛党と春雨が手を組んだ理由は名前…あの女は恨みを買い過ぎでさァ」
「万事屋の野郎が言った通り、空港でも一悶着あったらしいしな。これは山崎がとってきた情報だが、伊藤の野郎と名字も繋がっていたようだ」
「名前を逮捕できればすっきり寝れるんですがねェ…」
「次に動きがあったら知らせろ」
「あ、そうだ土方さん」
「あん?」
「空港近くのビルの上で銃痕を発見したってさっき山崎が…」
「お前早く言えよ!」
「内線電話に出なかった自己責任でさァ」

土方は気がつかなかった。彼のデスクの上で鑑識から帰ってきた盗聴器が反応していることに。彼らの会話を聞き取っていた彼女は小さくため息をつき、少し笑った。


■ ■ ■


桂は坂田探偵事務所を訪れていた。坂本から聞いた話を銀時にも伝えるべきだと思ったのだ。不眠不休でマナを探しているらしい銀時の目の下にはくっきりと隈ができていた。コーヒーをすする銀時の前に腰掛け、どう切り出すか迷う桂の前にも新八がお茶を差し出した。

「すまない…」
「僕は外したほうがいいですか…?」
「そうだな…いや、どっちでもいいが…」

桂は銀時を見た。それを見て新八は察したように居間を後にした。それを見て銀時が桂を促す。オブラートに包む事無く言ってほしいのだろう。

「お前がみた情報は正しかったようだ。坂本が名前の両親について知らせたようだ。その内容が、これだ…」

桂は名前の両親が書いたとされるレポートを銀時に見せた。小難しい専門用語が並ぶ論文は最初の三行で飽きがきてしまう。要約だけ読んで、銀時は顔をあげた。

「マナは名前のクローンだ。脳は人工物。それを坂本が持っていた」
「は?」
「俺も信じられん」
「……」
「だが、真実のようだ」

マナが名前を消そうと紅蜘蛛党と春雨を利用したのは銀時もよく知っている。その後、空港に高杉が送り届けたはず。だがそこから名前の行方は分かっていない。名前はどんなときにでも銀時にだけは連絡をしていた。だが、いつまでたっても音沙汰が無い。

「公安の連中からは?」
「沖田君が名前と連絡をとった、ってのは聞いたけど、本人かどうかわかんねーしなぁ。それにあっちも忙しいみたいだし」
「あいつが今更公安と連絡をとるようには思えんがな」
「ああ。俺も同意見だ」

銀時は髪をぐしゃぐしゃとかき回した。これ以上深入りしない方がいいとわかってはいるが知らん顔はできない。現に神楽はマナが帰ってこないことでまぶたを腫らしている。完全に行き詰まった。事件の背景が分かっても彼女達の現在が全く見えてこない。

「お手上げだ。こうなったら春雨の方から調べるしかないだろう」
「…俺はマナの異変に気づけなかったんだな」
「……」

がたっと音がして居間につけられていた押し入れが音を立てた。銀時と桂が勢い良く顔を上げる。木と木がこすれ合う音がして、ゆっくり襖が開いた。暗闇から見えるのは明るい髪色。神楽だ。すかり忘れていた。寝ずに探しまわろうとしていた神楽を押し入れに押し込み、寝かせようとしたのを。

「聞いてたのか…」
「今、春雨って言ったアルか?」
「……」
「春雨に、伝手があるアル」
「あ?」
「兄貴が、春雨にいるヨ」

神楽の言葉で銀時は駐車場であった男がどこか神楽に似ていたことを思い出した。青い瞳にピンクの髪。まさか。

「リーダー、つかぬことを伺うが、兄の名前は?」
「神威アル」

間違いない。銀時は眉間を押さえた。確かに神楽が神威と連絡をとれるならば、得る情報は多いだろう。だが、マナをさらったのも神威だ。少しだけ迷った。神楽の心労を増やしたくはない。けれども、はっきりさせたい。銀時と同じように神楽も胸に重い物を感じていた。確証はない。

「銀ちゃん…」
「連絡、とってくれるか?」
「了解アル!」

空元気を振りかざすように神楽は明るい声をあげた。押し入れから出て、充電されているスマートフォンまで駆け寄る。待ち受けの写真にはマナと神楽と名前が写っていた。女子会をしよう、と神楽が言い出し、鍋をしたときの写真だ。涙が出そうになるのを必死で堪え、電話帳をスクロールした。

「かけていいアルか?」
「ああ。出たら代わってくれ」

静まり返った探偵事務所で音量をマックスにした神楽の発信音が響く。数回の呼び出し音の後、眠そうな神威が声を上げた。

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