06

銀時がこの部屋に入れるはずがない。どうしてここにいるのか?という疑問は彼に聞くことですぐに解決した。リビングは荒らされた様子は見当たらない。名前は安全装置をかけた拳銃をしまった高杉が煙草を取り出そうとするのを止めた。カーテンを閉めた名前は銀時と向き合う。

「……鍵が開いていたって本当?私たちが来たときは閉まってたけど?」
「ドアの間にこれが挟まってたんだよ。マナの鞄についてたマスコットだ。神楽とお揃いで買った奴だから間違いない」
「……」

銀時がポケットから取り出したマスコットを名前は受け取った。青い目のウサギのマスコット。銀時がマスコットを拾ったことにより施錠されてしまったらしい。どうやら数秒の差でこのマンションに到着したようだ。誰かが入ってくる音がしたため隠れていたという。部屋を見渡す名前の隣で高杉の視線がリビングデスクの上に置かれた電話番号の書かれた紙を取り上げた。写真のようだ。何気なくひっくり返す。

「……」

表情を険しくした高杉は無言で名前にその写真を差し出した。その様子を見て銀時は顔を伏せる。もう彼は見たのだろう。
名前の目が大きく見開かれ、唇がわなわなと震えた。写真の端を強く握りしめたせいで皺が寄った。名前の手から写真を取った銀時はその裏の電話番号を見せる。自分を落ち着けるように大きく息を吸った彼女から離れ、高杉は台所へと向かった。冷蔵庫を開けるとコカコーラの缶が冷えている。一本いただくことにした。

「悪い、俺の監督不届きだ」
「いや……あたしが原因だと思う。ごめん」

名前をソファーに座らせて、銀時と高杉は他に手がかりがないかと各部屋を見回ることにした。盗聴器や隠しカメラが無いか確認していき、安全だと判断したところで名前の待つリビングに戻った。

「どうすんだ?」
「神威に接触してみるわ。この番号見覚えがあるもの」
「俺は何をすればいい?」
「あの子の救出を手伝って欲しい。高杉と……坂田、依頼できる?」
「ああ」

高杉と銀時がいれば安心だ。マンションを出た三人は腹ごしらえをすることにした。
問題はいつ神威に接触するか。早い方がいい。写真を睨みつける名前は食が進まないなかベーコンとアボカドのサンドウィッチを口に押し込んだ。高杉はコーヒーを啜り、銀時はパンケーキをぺろりと食べる。全国チェーンのファミレス。平日の午前のせいか、空いていた。入口に視線を投げていた名前は入ってくる人影に向かって手を上げる。

「おはよう」
「なんだお前らもいるのか……」

入ってきたのは桂だった。自称、革命家。桂は名前と同じ席に腐れ縁である銀時と高杉までいるのを見て目を見張った。席に付き、エビ天蕎麦を注文した。運ばれてきた水を飲み、A4サイズの紙を数枚取り出した。

「.44Magnumの弾倉十個とグロック18の改造版、弾倉だ」
「朝早くに悪いわね」
「また何かやらかすつもりか?高杉と銀時まで……」
「大丈夫、これで最後のつもりだから。あ、あとこないだのパスポートありがとう」
「お前もいい年なんだから……」

桂の説教を聞き流して名前は小型スーツケースを受け取った。この後坂田探偵事務所に行ってカメラやら盗聴器やら薬やらを取りに行く予定である。水を口に含んだ名前は欠伸を噛み締める。桂にも協力を仰ぎたいところだが、彼は午後から九州に飛ぶらしい。会計を済ました名前は高杉の車に乗り込んで桂と別れた。銀時は原チャがある。

「まさかここまで厄介になるとは思わなかったわ……」
「見捨てればいいじゃねェか」
「やな男。唯一の肉親なのに」
「甘い女だな」

喉で笑った高杉は銀時の事務所へと車を走らせる。頬杖をつく名前の脳内ではどんなプランが立てられているのだろうか。マナを見捨てれば確実に名前は海外に飛べる。今の名前にとって妹は足枷でしかない。五体満足で生きている保障はないし、確実に姉の仕事を知られてしまっているだろう。最後の肉親とどう対面するのか。少し興味があった。事務所の前に車を止め、トランクから愛刀を取り出した高杉と一緒にインターフォンを鳴らした。

「入れよ」

神楽と新八はいないようだ。二人とも学校だろう。どこか甘い匂いのする事務所に足を踏み入れて、銀時の支度が終わるのを待った。高杉はシャワーを借りると言って席を立つ。名前はベランダに出て写真を眺めた。椅子に括り付けられた妹。怪我はしていなさそうだし、服装の乱れはない。ひっくり返し、電話番号を飛ばし携帯の方に入力した。発信音の後、呼び出し音がする。

「もしもし」
「思ったより遅かったネ。てっきり妹を捨てたのかと思ったヨ」
「あなたと一緒にしないでくださる?」
「ふふっ……変わらないネ」
「まさか人質なんて姑息な手段を取られるとは思いませんでした。妹に代わってくれませんか?」
「背に腹は代えられないからネ。こうでもしないと名前、来てくれないだろう?君の機転には一杯食わされた思い出があるしネ。残念だけど、今、彼女睡眠中なんだ。起こすのは、可哀想だろう?」
「無事だって証拠は?」
「あとで写真送ってあげるヨ。彼女の見張りは阿伏兎だ。俺なりの優しさだ」
「……そうですね。阿伏兎さんなら安心です」
「妬けちゃうなァ。……じゃあ本題に入ろうか。君の可愛い妹に会いたければ一時間以内に池袋西口公園に来てくれる?もちろん、一人で」

名前の返事を聞く前に神威は電話を切っていた。後ろを振り返ると阿伏兎が煙草を吹かしながら困ったような表情を浮かべている。今回は神威のわがままで春雨としての仕事じゃない。それに胃を痛めている部下に肩をすくめて見せた神威は足元に転がる死体を軽く蹴って名前を迎えに行く準備を始めた。

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